この書籍、「Hans J. Wegner’s 100 Chairs(ハンス・ウェグナーの椅子100)」は、デンマークを代表する家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーの椅子の世界を専門的な視点から紹介しています。ウェグナーは1914年にデンマークのトゥナーで生まれ、家具職人としての道を歩み始めました。本書は、彼の家具職人としての経験と、その後のアカデミックな学びが融合したデザインの本質に迫ります。
特に注目すべきは、ウェグナーのリデザインという思想です。彼は単に新しい形を生み出すだけでなく、古くから伝わる良質なデザイン要素を学び取り、それを現代の生活や技術に合わせて再構築しました。このアプローチは、例えば中国明時代の椅子を基にした「チャイニーズチェア」や、イングリッシュ・ウィンザーチェアをリデザインした「イージーチェア」など、多くの代表作に見られます。彼のデザインは、単に美しいだけでなく、機能性と美しさが両立しており、日常生活の中で使いやすく、丈夫であることが重視されています。これは、「健康的なデザイン」という思想にも繋がっています。
ウェグナーのデザインにおけるもう一つの重要な側面は、素材への深い理解と愛情、そしてディテールへの徹底したこだわりです。特に木材の扱いには長けており、「契り」と呼ばれるジョイント部分など、構造そのものがデザインのポイントとなるような工夫が随所に見られます。また、彼はプロトタイプ製作を重視し、試行錯誤を重ねながらデザインを洗練させていきました。製作においては、手仕事と機械加工をバランス良く組み合わせることで、品質を保ちつつも、ある程度の量産性やコスト削減にも配慮しています。
本書では、「Yチェア」や「シェルチェア」、「ウィングバックチェア」、「フラッグハリヤードチェア」など、ウェグナーの多岐にわたる作品が紹介されており、それぞれの椅子の誕生背景や構造的な特徴、使用されている素材などが詳しく解説されています。例えば、「Yチェア」は、チャイニーズチェアのデザインを発展させたものであり、その特徴的な背もたれやペーパーコード張りの座面について専門的に解説されています。また、「ハートチェア」のような3本脚の椅子に触れ、その安定性の秘密にも迫ります。
ウェグナーは、デンマーク家具デザインの黄金期を築いた一人であり、コーア・クリント、ボーエ・モーエンセン、フィン・ユール、アルネ・ヤコブセンなど、同時代の著名なデザイナーたちと交流し、互いに影響を与え合いながら作品を生み出しました。本書は、彼の作品を通して、デンマークデザインの歴史や特徴、そしてそれが世界中で評価される理由にも言及しています。
さらに本書は、ウェグナー自身のアトリエや故郷の博物館にも触れ、彼の創作環境やインスピレーションの源泉を探ります。展示会での作品発表の記録や、日本の家具職人やデザイナーへの影響についても専門的な知見が示されています。このように、本書は単にウェグナーの椅子を紹介するだけでなく、そのデザイン哲学、製作技術、そしてデンマークデザイン史における彼の位置づけに至るまで、多角的な視点から掘り下げた専門的な一冊と言えます。
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世界初、北欧インテリアの最高峰ウェグナーがデザインした100脚の名作椅子を大公開。特別付録イラスト付き・ウェグナー389作品年表付き。「椅子の詩人」と呼ばれ、500脚以上の椅子をデザインしてきたデンマークのデザイナー、ウェグナー。世界で最も美しい椅子と言われるザ・チェアをはじめ、ベスト100を選び材質・特徴を紹介。
About
Author
織田 憲嗣
Publisher
平凡社
Size
198ページ
Furniture
・Yチェア (ワイチェア / CH-24)
・チャイニーズチェア (Chinese chair / FH-4283, PP-56 他)
・ザ・チェア (The Chair)
・シェルチェア (Shell chair / FH-4683 他 プロトタイプを含む)
・スリーレッグドシェルチェア (Three-legged shell chair / プロトタイプ)
・ウィングバックチェア (Wingback chair / Johannes Hansens Møbelsnedkeri, Getama/GE-181, GE-182)
・ロッキングチェア (Rocking chair / Mikael Laursen, PP Møbler/PP-124 他)
・スタッキングチェア (Stacking chair / Fritz Hansen Etf 他 PP-55, PP-203-3 と関連あり)
・フォールディングチェア (Folding chair / Johannes Hansens Møbelsnedkeri/JH-512 / PP Møbler/PP-512, PP Møbler/PP-90H)
・ドルフィンチェア (Dolphin chair / プロトタイプ JH-512 をリデザイン)
・ザ・フラッグハリヤードチェア (The Flag Halyard chair / Getama/GE-225)
・ベアチェア (Bear chair) (別名:Bamse stol / 熊の椅子) [前回の会話履歴, 32 類似品に関して]
・バックチェア (Buck chair / Johannes Hansens Møbelsnedkeri/AP-69, JH-46)
・ザ・ハートチェア (The Heart chair / Fritz Hansen Etf/FH-4104)
・ヴァレットチェア または バチェラーズチェア (Valet chair or Bachelors chair / Johannes Hansens Møbelsnedkeri/JH-540, PP Møbler/PP-250)
・スツール (Stool / AP Stolen/AP-19A, Johannes Hansens Møbelsnedkeri/JH-19A, Carl Hansen & Son/CH-53, Getama/GE-375T 他) (複数のモデルあり)
・アームチェア (Arm chair) (多数のモデルあり。以下は詳細が記載されている一部)
Arm chair JH-471
Arm chair AP-50, JH-50
Arm chair CH-35, CH-34
Arm chair JH-701, PP-701 (Stacking)
Arm chair PP-203 (PP-201, PP-203 series)
Arm chair JH-811 (Steel flat bar)
Arm chair PP-62
Arm chair AP-15, AP-16
・ダイニングチェア (Dining chair) (多数のモデルあり。以下は詳細が記載されている一部)
Dining chair CH-23
Dining chair CH-33
Dining chair CH-36
Dining chair CH-38
Dining chair CH-47
Dining chair CH-21, GE-600
・イージーチェア (Easy chair) (多数のモデルあり。以下は詳細が記載されている一部)
Easy chair GE-240
Easy chair JH-509
Easy chair JH-703 (Metal frame)
Easy chair GE-375 (AP-71/72 と関連)
Easy chair GE-460
Easy chair PP-112 (Spindle back)
Easy chair JH-477 (Plywood frame)
Easy chair PP-105
Easy chair JH-550 (プロトタイプ)
Easy chair カストラップチェアシリーズ (GE-280, GE-290)
・チェア (Chair / Carl Hansen & Son/CH-1, Getama/GE-673) (特定のモデル名が単にChairと記載されている例)
・カウホーンチェア (Cowhorn chair)
・ザ・ブルホーンチェア (The Bullhorn chair)
・ハンモックチェア (Hammock chair / Getama, PP Møbler/PP-135)
・ラウンジチェア (Lounge chair / Johannes Hansens Møbelsnedkeri/JH-719)
・ジャパンチェア (Japan chair / custom model / For MOA Museum)
・ザ・フープチェア または サークルチェア (The Hoop chair or Circle chair / PP Møbler/PP-130)
・ザ・Vチェア (The V-chair / PP Møbler/PP-51/3)
・スリーレッグドチェア (Three legged chair / PP Møbler/PP-203-3)
・シェルソファ (Shell sofa / FH-4683)
・ソファ (Sofa) (特定の名前のないものも含む総称)
・テーブル (Table) (特定の名前のないものも含む総称)
Review
本書『ハンス・ウェグナーの椅子100』は、生涯で500種類を超える椅子をデザインした デンマークの家具デザイナー、ハンス・J・ウェグナーの珠玉の作品から厳選された100脚を紹介する一冊です。
「Yチェア」、「ザ・チェア」[本書全体]、そして会話の中でも話題に上がった「ベアチェア」[前回の会話履歴, 32 類似品に関して] といった世界的に有名なアイコンはもちろんのこと、シェルチェア、ロッキングチェア、スタッキングチェア、フォールディングチェア、ヴァレットチェア(バチェラーズチェア) といった、多岐にわたる素材や構造、機能を持つ椅子たちがカラー写真と共に多数掲載されています。
本書の魅力は、単に美しい椅子の写真集であるに留まらない点です。それぞれの椅子に込められたウェグナーのデザイン思想 や、素材の選び方、職人技と工業生産の融合 といった深い洞察が、丁寧な解説で綴られています。スケッチや図面 [e.g., 18, 26, 35, 57, 64, 75, 84] も収録されており、デザインの思考プロセスに触れることができます。
「椅子のマスター」 と呼ばれるウェグナーが、いかにして使う人の身体と心に寄り添う椅子を生み出したのか、その秘密の一端を知ることができるでしょう。
ウェグナーの椅子が好き、北欧デザインに興味がある、家具の美しさに触れたい、そんな方にとって、本書は彼の創造の世界へと誘う、まさに必携の書と言えます。