WEGNER EN DANSK MOBELKUNSTNER

本書『ウェグナー:デンマークの家具芸術家』は、デンマークの著名な家具デザイナーであるハンス J. ウェグナーに焦点を当てた書籍です。この書籍の核心にあるのは、ウェグナーと家具職人であるヨハネス・ハンセンとの長年にわたる重要な協業関係です。彼らの関係は、特にコペンハーゲン家具職人ギルドの毎年恒例の展覧会において重要な役割を果たしました。ヨハネス・ハンセンの工房は、ウェグナーの新しいアイデアや実験的なデザインを実現するための中心的な場所となり、両者は緊密に協力して多数のプロトタイプや作品を生み出しました。ハンセンはウェグナーの実験的なアイデアに対し、驚くほどの職人技と度量の広さをもって応えたとされています。

ウェグナーのデザインは、幼い頃に家具職人の徒弟として訓練を受け、後にコペンハーゲン芸術工芸学校で学び建築家となった 彼の経験に基づいています。彼の哲学は、機能性、素材への深い敬意、そして伝統的な職人技とモダンな形態の融合にあります。デザインプロセスは、詳細なスケッチや模型製作、試作を伴う丁寧なものであり、一つの作品が完成するまでに長い時間をかけることもありました。

書籍では、ウェグナーの数々の象徴的な椅子が紹介されています。例えば、彼の国際的な名声を確立した1949年の『ラウンド・チェア』(ザ・チェア)、羽を広げた孔雀のような背もたれを持つ1947年の『ピーコック・チェア』、衣服を掛けられる機能を持つ1953年の『ヴァレット・チェア』、中国の伝統にインスパイアされた『チャイニーズ・チェア』、広く普及した1950年の『Yチェア』 などです。他にも、テーブル、キャビネット、ソファ、シェルフシステムなど、多岐にわたる家具デザインが掲載されています。

ウェグナーの家具は、デンマーク国内の展示会や工房を通じて知られるようになり、やがてニューヨーク、ミラノ、ストックホルム をはじめとする国際的な展示会で高く評価されました。彼の作品はニューヨーク近代美術館など、世界中の主要な美術館に収蔵されています。1950年のルニング賞、1951年のミラノ・トリエンナーレでのグランプリ受賞 など、数々の栄誉ある賞も受賞しており、特にアメリカ合衆国では大きな成功を収めました。ジョン・F・ケネディ大統領が『ザ・チェア』を使用したことも、その知名度を高めた出来事として言及されています。

ウェグナーのデザインは、ヨハネス・ハンセンの工房だけでなく、カール・ハンセン&サン、アンドレアス・タック、ロユ・モブラー、ゲタマ、A.P. ストーレンなど、複数のデンマークの家具メーカーによって生産されました。

ウェグナーの家具は、その美しさ、機能性、そして品質の高さから、個人宅だけでなく、オフィス、銀行、大学、大使館、会議室など、多様な空間に採用されました。書籍には、彼の家具で設えられたオフィスやショールームなどの写真も多数掲載されており、空間と家具との調和を重視する彼の姿勢が伺えます。

本書全体を通して、ウェグナーがヨハネス・ハンセンとの協力関係を通じて、伝統的な職人技を基盤に置きつつ、いかに革新的なデザインを生み出し、それが国内外で広く評価され、デンマーク家具芸術の象徴となっていったかが詳述されています。


About

Author

Johan Møller Nielsen

Publisher

Gyldendal

Size


Content

  • Forord (序文) – 9ページ
  • 1 – Den unge Wegner (若きウェグナー) – 13ページ
  • 2 – Johannes Hansen (ヨハネス・ハンセン) – 20ページ
  • 3 – På vej til et ornament (装飾への道) – 27ページ
  • 4 – da stolen blev født – 1949 (椅子が生まれた時 – 1949年) – 44ページ
  • 5 – Verdensmøbler (世界の家具) – 54ページ
  • 6 – Hverdagmøbler (日常の家具) – 81ページ
  • 7 – Møbelsnedkeriet (家具職人技 / 家具工房) – 94ページ
  • 8 – Arkitekt Hans J. Wegner m.a.a. (建築家 ハンス J. ウェグナー m.a.a.) – 110ページ
  • Summary (要約) – 119ページ
  • Fotografer (写真提供者) – 134ページ

Review

本書『ウェグナー:デンマークの家具芸術家』は、デンマークが生んだ世界的な家具デザイナー、ハンス J. ウェグナーのクリエイティブな軌跡を深く掘り下げた一冊です。
 

この本の最大の魅力は、ウェグナーと熟練の家具職人、ヨハネス・ハンセンとの特別な協業関係に焦点を当てている点です。ヨハネスハンセンの工房は、ウェグナーの革新的なアイデアや実験的なデザインを形にする重要な「研究室」として機能しました。二人の間には、ウェグナーの実験的な発想を受け入れる寛容さと、それを最高の職人技で実現する丁寧さがあり、この稀有なパートナーシップから数々の名作が誕生したプロセスが生き生きと描かれています。

本書では、ウェグナーがどのようにして独自のデザイン哲学を確立していったのか、彼の幼少期の経験や学び、そして細部までこだわり抜いた製作プロセス が紹介されています。国際的な名声を確立した「ラウンド・チェア」(ザ・チェア) や「Yチェア」、「ピーコック・チェア」、「ヴァレット・チェア」 といった彼の代表的な椅子だけでなく、テーブル、収納家具など、幅広いデザインが豊かな写真と共に掲載されており、その普遍的な美しさを感じることできます。

また、彼の作品がデンマーク国内からニューヨーク、ミラノ、ストックホルムへと広がり、世界中の美術館に収蔵され、多様な空間で人々に愛用されていった過程が描かれており、ウェグナーがいかにしてデンマーク家具を世界の舞台へ押し上げたかが伝わってきます。

この本は、単なる作品集ではなく、一人の偉大な「家具芸術家」の情熱、探求心、そして人と人との幸福な協力関係 がいかに素晴らしい創造を生み出したのかを教えてくれます。家具やデザインに興味がある方はもちろん、何かを「つくる」ことの根源的な喜びや、時代を超えて価値を持つものづくりの秘密に触れることができます。

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