POUL KJAERHOLM FURNITURE ARCHITECT |ポール・ケアホルム 家具デザイナー

この本は、家具デザイナーとしての経歴を持ちながら、自身を家具建築家と見なしたポウル・ケアホルム(Poul Kjærholm)の作品と哲学に焦点を当てています。彼は、家具が既存の空間において決定的な要素として介入し、それらを単なる場所から人間関係が明確になり、視覚化される「場(Places)」へと変容させるという根本的な信念を持っていました。ケアホルムにとって、個々の家具はそれを取り巻く空間との集中的な対話を生み出すものであり、この対話は形、素材、そして表面の処理に至るまで、作品そのものの美徳によって行われます。彼は、美的な質とデザインを重視し、形と構造が意味を伝えると信じていました。

ケアホルムの作品へのアプローチは、家具建築家として家具を擁護する価値があるものとして捉えることに根ざしています。彼は素材の徹底的な活用と、シンプルで分かりやすい構造を追求しました。彼の美学は、人々や社会との関連性の中で捉えられており、家具のクラシックは文脈に依存せず、どのような空間にも尊厳と統一性を持って存在できると考えました。家具は空間を創出する力を持つとも述べています。彼のデザインは、職人としての経験に深く影響されており、キャビネットメーカーとしての修行、そして美術工芸学校および王立芸術アカデミーでの学びを通して、素材や道具に対する深い理解、そして進化する過程としての家具を捉える姿勢を身につけました。彼は、「素材が悪ければ、完成品も良くならない」という職人仕事の第一の教えを実践し、完璧な形態に到達するために適切な素材、道具、プロポーションの選択を重視しました。彼は純粋な構造を追求し、作品の精緻さと耐久性を独創性よりも価値あるものと見なしました。

ケアホルムは、椅子やテーブル、デイベッド、スツール、スクリーン、ソファなど、多岐にわたる家具をデザインしました。彼は木材、スチール、革、籐、キャンバス、合板、アルミニウム、グラスファイバー、大理石、コルク、コンクリートなど、幅広い素材を探求し、実験的な取り組みを行いました。彼は、物の形はその基本的な素材を反映すべきであると主張し、素材そのものが作品を語るように設計しました。特にスチールについては、マットな仕上げが施された表面が光を優しく反射するという点が彼の美学にとって重要であったと説明しています。

本書は、ケアホルムの作品が、どのように空間を定義し、形作ることができるのか、そして素材と構造の誠実さがどのように家具の美しさと機能性を高めるのかを探求しています。彼の作品は、展示会におけるインスタレーションとしても発表されており、家具の配置や構成が空間認識に与える影響を示すものでした。また、キャビネットメーカーやメーカーとの協業、そして他の建築家やデザイナーからの影響についても触れられており、彼の作品がデンマーク家具の伝統を受け継ぎつつも、独自の道を切り開いたことが示されています。全体として、本書はケアホルムの家具建築家としての思想、彼の作品における素材と構造の重要性、そして空間との関係性における家具の役割に焦点を当てた専門的な紹介を提供しています。

 


About

Author

Michael Sheridan(マイケル・シェリダン), Poul Erik Tojner

Publisher

Louisiana Museum of Modern Art

Size

24.6×29.5cm(220ページ)


Content

・PREFACE(まえがき) – p.6
・THE KJÆRHOLM CULT(ケアホルムの信奉者) – p.8
・THE WORKSHOP(工房) – p.16
・THE FACTORY(工場) – p.38
・ASSEMBLY(組み立て) – p.68
・CRAFT(クラフト) – p.98
・ELEMENTS(要素) – p.130
・SPACE(空間) – p.168
・BIOGRAPHY(略歴) – p.216
・BIBLIOGRAPHY(参考文献) – p.218
・LIST OF WORKS(作品リスト) – p.220


Furniture

この本には、ポウル・ケアホルムが「家具建築家(furniture architect)」としてデザインした様々な家具が登場します。彼は家具を単なる機能的なオブジェクトとしてではなく、空間を定義し「場(Places)」を創造する要素として捉えていました。彼のデザイン哲学は、素材と構造の誠実さに基づいています。

提供されたソースに基づいて確認できる家具のモデル名やデザインは以下の通りです。

PK+番号形式の家具モデル:

・PK 0
・PK 1 (flaglineを用いたスチールフレームの椅子)
・PK 2 (籐張りの溶接スチールフレームの椅子)
・PK 9 (特徴的な対角線の脚を持つダイニングチェア)
・PK 11 (革またはパーチメントのシートを持つ椅子)
・PK 12 (椅子)
・PK 20 (スチール構造と革張り地のラウンジチェア)
・PK 22 (キャンバスまたは革の張り地のラウンジチェア)
・PK 25 (成型アルミニウム製の椅子)
・PK 26 (ハンギングウォールソファ)
・PK 31 (モジュール式のソファ/チェア)
・PK 33 (スツール)
・PK 50 (会議用テーブル)
・PK 54 (ダイニングテーブル)
・PK 54A (PK 54用のメープルリーフ)
・PK 61 (テーブル)
・PK 62 (テーブル)
・PK 63 (テーブル)
・PK 65 (フリントローラー加工大理石天板のテーブル)
・PK 80 (デイベッド)
・PK 91 (折りたたみスツール)
・PK 111 (フリースタンディングルームディバイダー)

特定の名称を持つ家具デザイン:

・アルミ椅子 (Aluminium chair) – PK 25 を含む、一連の実験的なアルミニウム製の椅子デザインを指すと考えられます。
・Østre Gasværk Theatre chair – Østre Gasværk Theatre のためにデザインされた椅子です。
・Louisiana chair – ルイジアナ近代美術館のためにデザインされた椅子です。
・Modular bookcase – モジュラー式の本棚です。


Review

この本は、「家具デザイナー」という肩書きを超え、自らを「家具建築家」と称したポウル・ケアホルムの、その独特な思想と創造の軌跡を専門的に紹介する一冊です。ケアホルムは、家具が単に空間に置かれる物ではなく、既存の空間に深く関与し、人々が集まり、人間関係が明確になる「場(Places)」へと変容させる決定的な要素であるという揺るぎない信念を持っていました。彼の作品は、形、素材、表面の扱いといった作品そのものの美徳によって、周囲の空間との密接な対話を生み出します。

彼のデザイン哲学の根底にあるのは、素材の徹底的な活用と、シンプルで明快な構造の追求です。職人としての修行から得た「素材が悪ければ、完成品も良くならない」という教えを忠実に守り、作品の精緻さと耐久性を独創性よりも高く評価しました。特に、物の形はその基本的な素材を反映すべきであるという彼の考えは、作品に誠実さと力強さを与えています。鉄骨フレームに籐や革、キャンバスといった多様な素材を組み合わせる彼の実験的な取り組みは、素材の持つ可能性を最大限に引き出すものでした。

本書は、「工房」「工場」「組み立て」「クラフト」「要素」「空間」といった章立てを通じて、ケアホルムの創作のプロセス、素材への深い洞察、そして家具が空間にいかに影響を与えるかを多角的に探ります。彼の思考の断片であるスケッチや図面が豊富に収録されており、ケアホルムの仕事の神髄に視覚的にも迫ることができます。

家具デザイン、建築、そして空間論に関心を持つ読者にとって、ポウル・ケアホルムの革新的な視点と、素材・構造・空間の関係性への深い洞察を理解するための、示唆に富む一冊となるでしょう。

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