このカタログ・レゾネは、個々の作品がアートとしてではなく、主にコールド・クリステンセンのプロダクションからの家具作品として捉えられている点で独特です。本書は、ケアホルムの仕事を生涯にわたって追い、特に彼が用いた素材に焦点を当てています。初期の実験的な段階、鋼を使った作品群、そして後の木材を用いた作品群という三つの主要なセクションに大別されています。
ケアホルムは、材料の構造的な可能性を探求することに深く関心を持ち、伝統的な木材構造から離れ、初期にはコンクリート、鋳造アルミニウム、溶接鋼線といった工業材料を取り入れました。彼は、鋼材が持つ構造的な強さと、光を反射する表面に特に魅力を感じていました。素材の内在的な性質を尊重し、それぞれの機能を最大限に引き出すことを目指しました。彼のデザインは、形態の純粋さ、構造の明快さ、そして素材の持つ触覚的な質感を重視しています。例えば、PK 22ラウンジチェアでは、ばね鋼の構造的な特性を活かし、フレームの要素を独立した部品として提示しました。PK 91折りたたみスツールでは、古代エジプトの折りたたみスツールから着想を得て、鋼材を使用することで歴史的な家具のタイプを彼の現代的な表現へと翻訳しました。
コールド・クリステンセンとの協力関係は、1956年から1981年にかけてケアホルムの家具の生産と流通において非常に重要でした。また、写真家のケルド・ヘルマー=ペダーセンは頻繁に共同作業を行い、彼の写真は本書でも多く使用されています。後には、木材を用いた作品において、木工職人のエイナール・ペダーセンが重要な協力者となりました。
本書では、PK 9、PK 20、PK 22、PK 24、PK 61、PK 33、PK 80、PK 91、PK 101など、ケアホルムの代表的な家具作品について、その開発経緯、使用された材料、寸法、および製造時期が詳細に記述されています。彼の作品は、タールンビュー市庁舎 やルイジアナ近代美術館 など、様々な建築空間で使用されました。また、彼は展覧会のデザインや什器の設計も手掛けました。
特に、PK 24ラウンジチェアは、ケアホルムが「中立平衡原理」と呼んだ、座る人の体重と摩擦によって座面の位置が調整される繊細な機構を備えています。これは、重力を利用した革新的なデザインの一例です。また、PK 61ローテーブルは、PK 22ラウンジチェアを補完するためにデザインされ、鋼材のマットな質感と石材やガラスの反射しない表面の対比を強調し、シンプルな要素からなるマニフェストのような作品と評されています。
資料には、ケアホルムの作品やインスピレーション源に関連すると考えられる、抽象的なイメージも含まれています。これらは彼のデザインにおける素材の探求や自然との関連性を視覚的に示唆しています。
このカタログ・レゾネは、ケアホルムの家具デザインにおける革新的なアプローチ、特に素材への深い理解と構造的な明快さの追求、そして彼の作品が現代デザイン史において持つ重要な位置付けを詳細に記録した専門的な資料です。
About
Author
Michael Sheridan(マイケル・シェリダン)
Publisher
Gregory R. Miller & Co.
Size
22.86 x 3.05 x 22.61 cm(224ぺージ)
Content
・序文:ポール・ケアホルムの妻であり建築家のハンネ・ケアホルム(Hanne Kjærholm)による序文。
・伝記的エッセイ:シェリダンによる、ケアホルムのデザイン哲学とキャリアの発展を追った詳細なエッセイ。
・70の作品エントリー:ケアホルムが実際に制作した全作品を網羅し、各作品の寸法、素材、図面、ヴィンテージ写真などを含む詳細な解説。
・補足資料:製造年表、製造元情報、素材とメンテナンスに関する注釈、製造スタンプの解説など。
Furniture
・”Element” Chair (PK 25). 1951
・Steel Tube Chairs. 1952 (プロトタイプ)
・Steel Table. 1952 (プロトタイプ)
・Laminated Wood Table. 1952 (プロトタイプ)
・Lounge Chair (PK 0). 1952
・Cantilevered Lounge Chair. 1953 (プロトタイプ)
・Table and Benches. 1953 (アパート用のプロトタイプ)
・Display Table for Tutein & Koch. 1953 (プロトタイプ)
・Display Table for “Experiment and Documentation”. 1954 (展覧会用)
・PK 1, 2, 3. 1956 (ダイニングチェア)
・PK 21, 22. 1956 (ラウンジチェア)
・PK 61. 1956 (ローテーブル)
・PK 101. 1956 (キャンドラブラム)
・PK 111. 1956 (スクリーン)
・”Fillifat”. 1957 (展覧会用構造物/オブジェ)
・PK 11. 1957 (デスクチェア)
・PK 80. 1957 (デイベッド)
・PK 31. 1958 (ソファ) (PK 31/2, PK 32/2, PK 31/3のバリエーションも含まれます)
・PK 33. 1959 (スツール)
・Display Fixtures for the Danish Section, XII Triennale di Milano. 1960 (展覧会用什器)
・PK 91. 1961 (折りたたみスツール)
・Ashtray for Fredericia Town Hall. 1963 (commissioned object – 特注品)
・PK 50. 1964 (ダイニングテーブル)
・PK 24. 1965 (ラウンジチェア)
・PK 62, 63, 63A, 64. 1968 (テーブル)
・Furnishings for the Council Chamber, Kalundborg Town Hall. 1970 (特定用途向け什器)
・PK 27. 1971 (ラウンジチェア)
・PK 66. 1971 (テーブル)
・PK 13. 1974 (カンチレバーアームチェア)
・PK 56. 1974 (ローテーブル)
・PK 26. 1976 (ハンギングソファ)
・”Louisiana” Bench. 1976 (プロトタイプ)
・Horserød Armchair. 1976 (プロトタイプ PK 28)
・Horserød Dining Table. 1976 (プロトタイプ)
・Furnishings for Restaurant Kanalen. 1978 (特定用途向け什器)
・PK 9
・PK 12
・PK 41
・PK 70
・PK 90
Review
デンマークの家具デザイナー、ポール・ケアホルムの全仕事を網羅した本書は、『THE FURNITURE OF POUL KJÆRHOLM: CATALOGUE RAISONNÉ』 と題され、彼のデザインの深層に迫る貴重な資料です。
ケアホルムは、キャビネットメーカーとしての素養を持ちながら、伝統的な木材だけでなく、鋼、石、ガラス など、多様な素材を積極的にデザインに取り入れました。彼はそれぞれの素材が持つ構造的な可能性を深く探求し、素材そのものの性質や構造をデザインの基盤としました。
本書では、PK 22ラウンジチェア のばね鋼を用いたフレーム、PK 61ローテーブル における鋼材のフレームと、石材やガラスといった天板の対比、PK 24ラウンジチェア のスチールフレームと籐やキャンバスなどの座面、PK 91折りたたみスツール のばね鋼構造 など、彼の代表作に込められた構造的な思考と素材の扱い方が、豊富な写真と図面 とともに紹介されています。
彼の家具の多くは、E. コールド・クリステンセン によって生産され、後期には熟練した木工職人であるエイナール・ペダーセン との協業 を通じて、木材を用いた作品も生み出されました。本書は、これらの製造パートナーとの協力関係も浮き彫りにしています。
本書には、完成品の美しい写真 に加え、ケアホルムのデザインプロセスを示すスケッチや図面 が多数掲載されています。また、素材のテクスチャや自然の要素、工業的な構造 を捉えた抽象的な写真 も収録されており、ケアホルムの鋭敏な観察眼とインスピレーションの源泉を垣間見ることができます。
ポール・ケアホルムの素材と構造への探求に焦点を当てたこのカタログ・レゾネは、彼の作品を深く理解するための包括的な資料であり、デザインに関心のある読者にとって、その本質に触れるための必携の一冊と言えるでしょう。