「Historien om SØREN WILLADSENS MØBELFABRIK」(ソーレン・ヴィラッドセン家具工場の歴史) は、デンマーク、ヴァイエンに設立されたソーレン・ヴィラッドセン家具工場がたどった軌跡を詳細にたどるものです。ヴェイエン美術館のためにメッテ・メアスク氏によって収集された資料に基づき編纂されたこの書籍は、単なる一企業の記録にとどまらず、20世紀デンマーク家具デザインおよび製造の発展を示す貴重な資料と言えます。
工場の始まりは1904年、「ニールセン&ヴィラッドセン」としてスタートし、1908年にソーレン・ヴィラッドセン氏が引き継ぎ「S. ヴィラッドセン家具工場および機械木工所」と改名されました。ソーレン・ヴィラッドセン氏は、職人的な技術 と近代的な機械木工 を組み合わせることで知られており、図面に基づく家具製造だけでなく、当初は棺桶なども製造していました。事業は拡大し、1927年にはコルディングの工場も買収し、1930年にヴァイエンへ移転させています。工場は火災を経験しましたが、建築家フランス・ダール・ニールセン氏による新工場棟の建設 を経て、生産を継続しました。第二次世界大戦中の資材不足においては、マツ、オーク、トネリコ、ブナといったデンマーク産の木材を有効活用したことからも、その適応力と技術力がうかがえます。
ソーレン・ヴィラッドセン家具工場、そして後継であるソーレン・ヴィラッドセン・エフテフ.は、数多くの著名な建築家やデザイナーとの協力を通じて、その家具の質を高めてきました。初期にはマグナス・L・ステファンセン氏、オスカー・グンドラハ=ペダーセン氏 らと共同で家具をデザイン・製造し、伝統的なスタイルから機能主義、モダニズムへと移行していきました。特に、フィン・ユール氏 の象徴的なデザインは、1949年頃からこの工場で製造されています。その他にも、ヨルゲンおよびナンナ・ディツェル、ピーター・ヴィットとオーラ・モルガード=ニールセン、カイ・リュンフェルト・ラルセン、そして特にモジュール式家具のトレンドを牽引したクリスティアン・ソルマー・ヴェデルによるMODUSシリーズ は、ソーレン・ヴィラッドセン・エフテフ.によって国際的に広く生産・販売されました。デザイナーたちは、エジプト家具 やブルーノ・マッソン氏 など、国内外からインスピレーションを得ていました。
品質においては、高い職人技と「Grøn Pris」(緑の価格)で示されるような並外れた品質が特徴でした。工場訪問者は、その職人の技術に感銘を受けたことが記録されています。工場生産と手作業を巧みに組み合わせることで、多様なデザインと高品質な家具の生産を可能にしました。一部の家具には、蒸気で木材を曲げるなど、高度な製造技術も用いられていました。
工場の家具は、国内外の展示会を通じて広く紹介されました。パリ万博 やストックホルム展示会、そしてデンマーク国内の重要な展示会であるケベストヴェネ などへの積極的な出展は、デンマーク家具産業における工場の重要性を示しています。また、1974年にはケルンでMODUSシリーズが展示され好評を得るなど、国際的な評価も高かったです。輸出マーケティングにも力を入れ、ジョン・D・ラヴェッツ氏(ソーレン・ヴィラッドセン氏の息子) がその役割を担いました。デンマーク家具が海外で人気を博していた時代背景 において、この工場もその国際的な潮流の一翼を担っていました。さらに、ヴィッケルソシリーズのソファが1964年のジャン=リュック・ゴダール監督の映画「軽蔑」に使用されるなど、文化的な影響力も有していました。
工場の所有権は、創業者のソーレン・ヴィラッドセン氏から、1947年以降は息子であるヨハン・D・ラヴェッツ氏 や娘のグレーテ氏、パートナーのエイナル・ペダーセン氏 らが引き継ぎ、「ソーレン・ヴィラッドセン・エフテフ.」として運営されました。これらの主要人物に加え、設計者や他の職人たちとの密接な協力関係 が、工場の発展を支えました。工場の歴史は、ヴェイエン美術館との深い関係 や、地域の産業、文化史とも結びついています。
総じて、この本は、ソーレン・ヴィラッドセン家具工場が、デンマーク家具産業の変遷期において、品質、デザイン、そして国際的な展開において果たした重要な役割を、関わった様々な人物や具体的な事例を交えながら描き出していると言えます。それは、職人技を基盤としつつ、新しいデザインや生産方法を取り入れ、国際社会にデンマーク家具の価値を発信していった工場の姿を明らかにするものです。
About
Author
METTE MÆRSK(メッテ・メアスク)
Publisher
Vejen Kunstmuseum(ヴェジェン美術館)
Size
22×28.5㎝(560ページ)
Content
1. STIFINDER I(探求者 I)
2. FORORD(序文)
3. SNEDKERMESTER SØREN WILLADSEN(家具職人 ソーレン・ヴィラッドセン)
4. BEGYNDELSEN(始まり)
・WIENERSTOLE(ウィーンの椅子)
・DEN TIDLIGE MØBELPRODUKTION(初期の家具生産)
5. MIDTEN(中間)
・FUNKTIONALISME(機能主義)
・SAMSKABELSE(共同創造)
・MØBLER & KERAMIK(家具と陶磁器)
・ET BOUDOIR(ブドワール)
・ET PRØVELAGER(サンプル倉庫/展示場)
・ET 40-ÅRS JUBILÆUM(40周年記念)
・EFTERKRIGSÅRENE(戦後)
・GENERATIONSSKIFTE(世代交代)
・INTERNATIONALE UDSTILLINGER(国際展示会)
・TIDENS MØBLER – HJEMMETS UDSTYR 1952(今日の家具 – 家庭の設備 1952)
・PORTEX(ピーター・ヴィットとオーラ・モルガード=ニールセンによるAXシリーズ)
6. SLUTNINGEN(終盤)
・MODERNE MODULER(モダンモジュール)介。
・MODELLER DER ENDER PÅ 9(9で終わるモデル)
・SLÆGTSSKAB(親類関係)
・FRA PRØVELAGER TIL SHOWROOMS(サンプル倉庫からショールームへ)
Review
本書「Historien om SØREN WILLADSENS MØBELFABRIK」 は、デンマークのヴェイエンに根ざし、20世紀デンマーク家具デザインの興隆期に重要な役割を果たしたある家具工場の知られざる歴史をひも解く一冊です。ヴェイエン美術館のために収集された資料に基づき編纂された この書籍は、単なる企業史に留まらず、デンマークの職人技、産業の発展、そしてデザイン界とのダイナミックな相互作用を描き出しています。
1904年に「ニールセン&ヴィラッドセン」として創業 し、1908年にソーレン・ヴィラッドセン氏が引き継いだ この工場は、彼の卓越した職人としての技術 と、近代的な機械生産 を融合させることで知られました。その生産は、初期の棺桶製造から、図面に基づく多様な家具製造へと進化。火災といった困難を乗り越え、建築家フランズ・ダール・ニールセン氏が設計した新工場で 生産を続けました。
この工場の最大の魅力は、デンマーク家具デザインの黄金期を彩った名だたるデザイナーや建築家との協力関係にあります。特に、世界的に知られるフィン・ユール や、革新的なヨルゲン&ナンナ・ディッツェル、モジュール家具の傑作MODUSシリーズ を手掛けたクリスティアン・ソルマー・ヴェデル、そしてイラム・ヴィッケルソ ら、多くの巨匠のデザインがここで形になりました。マグナス・L・ステファンセン やオスカー・グンドラハ=ペダーセン、カイ・リュンフェルト・ラルセン など、デンマークデザイン史に名を残す才能との協働は、工場の家具に「Grøn Pris(緑の価格)」と称される ほどの高い品質と独自性をもたらしました。
工場の家具は、国内のケベストヴェネ はもちろん、パリやストックホルム、ケルンといった国際展示会 を通じて世界に紹介されました。輸出マーケティングにも力を入れ、その影響力はジャン=リュック・ゴダール監督の映画に家具が登場する ほどでした。
本書には、貴重な写真資料が多数収録されていることが伺えます。当時の工場や職人の様子、そしてデザイナーたちの手による図面や完成した美しい家具の写真 は、デンマーク家具製造の現場を生き生きと伝えます。
この本は、一家族による工場経営が、いかにしてデンマークデザインの黄金期を支え、国際的な成功を収めたのかを、具体的なデザインや人物のエピソードと共に綴る、読み応えのある一冊です。デンマーク家具デザインのファン、産業史やものづくりに関心のある方にとって、新たな発見と深い洞察を与えてくれるでしょう。