本書は、フィン・ユールが「北欧デザインの巨匠」として、機能美を超えた感性を持つデザイナーであったこと を紹介しています。彼の作品は、椅子やインテリアデザインから日用品に至るまで多岐にわたり、その独特のフォルムは感覚的であり、美術品の領域に達しているとも評されています。
本書では、フィン・ユールのデザイン哲学や、彼が手掛けた具体的な作品が詳細に解説されています。彼の家具デザインは、機能性だけでなく、彫刻的な要素や自由な形態への追求 が特徴であり、木材などの素材を巧みに組み合わせ、細部までこだわった美しい曲面が生み出されています。例えば、ミッドセンチュリー期の代表作であるNo.45アームチェアは、「世界で最も美しい肘を持つ椅子」と称され、シート部とフレームの間に隙間を設けることでシートが浮遊しているかのような軽快な緊張感を生み出しています。また、ペリカンチェアのユニークな形状 や、チーフティンチェアのプリミティブ・アートに影響を受けた力強いフォルム など、各作品が持つ独自の魅力が紹介されています。ソファ、テーブル、サイドボード、キャビネットといった多様な家具も掲載されており、それぞれのデザインの意図や特徴が掘り下げられています。
フィン・ユールは、家具デザインだけでなく、インテリアデザイナーとしても国際的に活躍しました。ニューヨークの国連本部信託統治理事会会議場や、SASのチケットオフィス、ウィルヘルム・ハンセン書店など、空間全体をデザインする仕事 も多く手掛けています。これらの仕事を通じて、彼は国際的な名声 を確立し、特にアメリカでの評価が高かったことが示されています。
また、本書では、フィン・ユールと彼の協力者との関係も取り上げています。特に、家具職人のニールス・ヴォッダー は、彼の初期の主要なパートナーであり、多くの代表作が彼の工房で製作されました。二人の協力関係が生み出した作品は、高い技術と独創的なデザインの融合として重要視されています。
さらに、本書はフィン・ユール自身の生活にも触れており、彼が設計したコペンハーゲンの自邸 が、彼のデザイン思想を具現化した空間として紹介されています。自邸は、彼の作品や美術品、日用品が調和して配置された、機能性と美意識が融合した空間 であり、その設計は彼の「場」を演出する重要な要素となっています。庭との繋がりや、光と色彩の扱いなど、インテリアデザイナーとしての彼の視点も感じ取れる内容です。
総じて、この書籍の一部からは、フィン・ユールが家具デザイナー、インテリアデザイナーとして築いた独特のデザイン世界 を、彼の代表的な作品や活動、そして彼を取り巻く人々との関係性を通して、専門的かつ多角的に紹介している ことが読み取れます。
About
Author
織田 憲嗣
Publisher
平凡社
Size
21.7×17cm(168ページ)
Content
1. はじめに 2. フィン・ユールとデンマークデザイン 3. コーア・クリントと近代家具の基礎 4. 建築家としての歩み 5. 家具デザインと彫刻的表現 6. 1950年代の活躍 7. インテリアと空間デザイン 8. 家具作品の紹介 9. 日用品とプロダクトデザイン 10. フィン・ユールの自邸と暮らし 11. 関わった人々 12. 展覧会と評価 13. 年表 14. 参考文献 15. あとがき
Furniture
椅子のモデル:Pelican chair, Bone chair No.44, Arm chair, Arm chair No.45, Dining chair, Stool, Easy chair, Arm chair No.48, Westermann’s Fireside chair BO-59, Egyptian chair, Chieftain chair, Dining chair, Dining chair, Easy chair, Arm chair BO-72, Dining chair BO-63, Dining chair, Easy chair No.53, Spade chair NO-133, Easy chair, Bwana Lounge chair, Arm chair, Arm chair NO-901, Dining chair, Arm chair, Swivel chair, Swivel chair (high back type), Easy chair, Easy chair, Arm chair, Dining chair, Arm chair(2種類)
テーブルのモデル:Sofa table, Sofa table Butterfly table, Sofa table, Coffee table, Butterfly table, Table No.533, Dining table, Working table, Cocktail table (large/small), Bench & table BO-101
その他の家具モデル:Sofa, Sofa proto type, Wingback sofa, Sideboard (Diplomat series), Desk (Diplomat series), Cabinet (Diplomat series), Wall system, Double chest, Cabinet, Sofa (custom model)
スケッチ等のモデル記号:NV.1940, NV.c.1940s, NV.1943, NV(NA).1946, BO.1946, CB.1946, S.1948, NV.1947, NV.1948, NV.1949, Bo.1948-50, SW.1950, SW.1951, NV(BF).1951, NV or Bo.1951, SW.1952, FS.1957, NV.1957, FS(HS).1957, FS.1958, FS.1959, NV.c.1950s(2種), FS.c.1959, 7.c.1950s(2種), BF.c.1950s(3種), NV.1961, FS.c.1962, FS(FD).c.1962, 7.1962, FS(Ca).1963, FS.c.1963(2種), 7.c.1963, FS.1962-63, 7.c.1964-68
Review
この本「フィン・ユールの世界―北欧デザインの巨匠 織田 憲嗣」は、デンマークが誇る「北欧デザインの巨匠」、フィン・ユール の魅力的なデザイン世界に深く迫る一冊です。ユールのデザインは、単に機能的な美しさを追求するだけでなく、感性豊かで、もはや美術品の領域に達していると評されています。
本書を開けば、彼の代表作である「世界で最も美しい肘を持つ椅子」と呼ばれるNo.45アームチェア をはじめ、彫刻的なフォルムを持つペリカンチェア や、プリミティブ・アートに影響を受けた力強いチーフティンチェア など、数々の名作家具が詳細な解説とともに紹介されています。椅子だけでなく、テーブル、サイドボード、キャビネットといった多様な家具 や、ユニークな日用品のデザイン まで、ユールの幅広い創作活動をたどることができます。
また、本書はフィン・ユールが単なる家具デザイナーに留まらなかったことにも焦点を当てています。彼は、ニューヨークの国連本部信託統治理事会会議場 やSASのチケットオフィス といった、国際的な舞台での大規模なインテリアデザインも数多く手掛けました。空間全体をデザインする彼の類まれな才能 や、家具職人ニールス・ヴォッダーとの密接な協力関係 がどのように独創的な作品を生み出したのかを知ることができます。
さらに、彼自身のデザイン哲学が体現されたコペンハーゲンの自邸 も紹介されており、「場」をトータルにデザインする彼の思想に触れることができます。
機能を超えた美しさ、感覚に訴えかけるフォルム、そして空間全体を豊かにするデザイン。フィン・ユールの世界は、デザインを愛する人々にとって、きっと新たな発見と感動に満ちているはずです。著者の織田憲嗣氏による深い洞察 とともに、この巨匠の情熱と才能が凝縮された世界を、ぜひ本書で体験してみてください。