KAI KRISTIANSEN AN INDUSTRIOUS DESIGNER

本書はカイ・クリスチャンセン氏の70年以上にわたるキャリアを紹介しています。カイ・クリスチャンセン氏のデザインに対する現在の高い関心を明らかにし、なぜ彼の家具が今日でも人気を保っているのか、その理由を説明しています。また生産方法を近代化するために多大な努力を重ねてきたデンマーク全土の多くの家具製造業者の物語にも光を当てています。

本書の出版にあたっては日本の家具販売業者であるアニック・アソシエイツがチェアModel 42の復刻生産に興味を示した2004年頃から始まり、その後2008年に日本の宮崎椅子製作所がModel 42を含む複数のデザインの権利を引き継ぎ、生産を開始したことがきっかけの一つとなっています。クリスチャンセン氏自身が2006年に引退を決意し、自身の専門的なアーカイブの整理を始めたことも、本書の資料収集に大きく貢献しています。

家具職人としての訓練を受け、コーア・クリントのもとで学んだ彼の背景が、いかに数学をデザインの基礎とし、素材への深い理解と技術的な可能性を考慮した実用的かつ地に足のついたアプローチにつながったかを紹介しています。彼のデザインは、構造的な詳細と要素の形成における正確さと細心の注意によって特徴づけられ、美しいフォルムを決して軽視しない一方で、快適さと機能性を重視しています。また、同じ要素やモジュールを使用してコレクションを設計することによる効率性、そして輸送コスト削減のためのノックダウン方式の採用も彼のデザインの頻繁な特徴でした。

カイ・クリスチャンセン氏がデンマーク全土の多くの製造業者と密接に協力し、彼らをパートナーであり友人として見なしていた関係性も探求しています。彼のデザインは特定の製造業者やプロジェクト向けにカスタマイズされることが多く、彼の自我よりも市場のニーズや技術的な可能性が重要視されました。過去のデザインにおける美的詳細や構造的な解決策を再利用する彼の考え方も紹介されています。

最終的に、本書は、現在90歳を過ぎてもなおデザインへの情熱を持ち続け、自身のキャリアパスと継続的なプロジェクトに取り組んでいるカイ・クリスチャンセン氏の姿を描き出しています。彼の作品はいまだに人気があり、ヴィンテージ作品はオークションで取引され、新しい商品も製造されています。本書は、これらの活動を通じて、カイ・クリスチャンセン氏の「勤勉なデザイナー」としての歩みとその長きにわたる人気の理由を深く掘り下げています。

 


About

Author

Sisse Bro

Publisher

arnoldsche Art Publishers

Size


Content

・序文(Preface)
・経歴(Biography)
・デザインの特性(Design Traits)
・効率性(Efficiency)
・客観性(Objectivity)
・再利用(Reuse)
・ハウスデザイナー(House Designer)
・露出(Exposure)
・場所(Location)
・関連性、経済、生態学、常識(Relevance, Economy, Ecology and Common Sense)
・存在感と人気(Presence and Popularity)
・勤勉なデザイナー(An Industrious Designer)
・デザインに関する概念(Notions on Design)


Furniture

・MODELS 4110 / 4670
・MODELS 204 / 215 / 230
・MODEL 218-219
・SHELVING SYSTEM (FM Wall Furniture)
・LIVING ROOM COLLECTION
・MODEL A4 (A4 system)
・MODEL 20
・MODEL 52
・MODEL 55
・MODEL 515-519
・MODEL 141 (Collection 141 の一部)
・MODELS 130 / 137 (Collection 130/137は別のデザイナーの可能性あり、Kai Kristiansenの作品としてはCollection Universe や Model 141/161 が挙げられています。)
・MODEL KK7
・MODEL HANDY
・MODELS 4110 / 4110 UNI MASTER
・chair Model 42 および MODEL N042 (Model 42 は最も人気のあるモデルの一つとされています)
・Paperknife series および MODEL PAPERKNIFE (Collection 121 とも呼ばれます)
・MODEL UNI REST
・MODEL VM SYSTEM TABLES
・MODEL 160
・GLASS / METAL COLLECTION
・MODEL VM33
・MODEL 63 (ライティングデスク。長年にわたり人気があった製品です)
・MODEL FM WALL FURNITURE (FM-Reoler og skrivebord nr. 59 など)
・VM SOFA SERIES
・COLLECTION 121 (Paperknife collection とも呼ばれます)
・MODELS 4370 / 4570
・MODEL 410 JUNIOR
・MODEL 9-85
・Treco table / Treco modular system / MODEL TRECO
・SHELVING SYSTEM


Review

本書は、デンマークの家具デザイナー、カイ・クリスチャンセンの長いキャリアとその広範な作品群に光を当てる、待望の包括的な一冊です。著名な同業者たちに比べてメディアや批評の注目度が必ずしも高くなかったクリスチャンセンの物語とデザインポートフォリオを明らかにするという意図のもと、彼の個人的なアーカイブやインタビューを基にまとめられています。

クリスチャンセンは、コペンハーゲンの中心から離れたユトランド半島で独自の活動を展開し、デンマーク全土の様々な製造業者と協力して家具を製作してきました。彼のデザインは、論理的で洗練されており、機能性、経済性、耐久性を重視しています。特に、製造方法と素材への深い理解に基づいた実用的かつ産業的なアプローチが特徴で、ノックダウン方式やモジュラーシステムを取り入れるなど、効率的で生産しやすいデザインを追求しました。

椅子、テーブル、収納システムなど、多岐にわたる彼の作品は、その細部へのこだわりと、ユーザーの快適さを追求する姿勢を示しています。資料には、名作として知られるModel 42チェア や、組み立て式のTrecoテーブル、Paperknifeコレクション、様々なシェルフシステム など、豊富な写真や図面が掲載されており、彼の「勤勉なデザイナー」としての側面を視覚的に捉えることができます。

本書は、クリスチャンセン自身の視点から彼の経験と思想が語られており、デザインの背後にある考え方や製造業者との関係性など、貴重な洞察が得られます。デンマークデザイン史における彼の位置づけや、20世紀のデンマークにおける家具生産の革新に貢献したデザイナーたちの努力を理解する上でも重要な資料となるでしょう。

デンマークデザインに関心のある方や、一人のデザイナーが実践と理論、芸術性と産業性をどのように融合させてきたのかを知りたい方にとって、本書は間違いなく必読の一冊であり、読む価値の高い書籍です。


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