Poul Kjærholm |ポール・ケアホルム

ポール・ケアホルムの作品を紹介するこの書籍は、1950年代から60年代にかけて頂点を迎えたデンマーク家具デザイン運動において、彼の創造物が最も静穏な形態を体現していると位置づけています。ケアホルムは、機能性をデザインの一部とするという目標を徹底的に追求し、それは余分な要素を削ぎ落とし、純粋な実用的な形態が時代を超越したタイプとして明確に現れるプロセスでした。

彼の作品は、特に素材の革新的な使用によって特徴づけられています。指物師として修行を積んだにもかかわらず、ケアホルムはスチールの可能性に強く惹きつけられました。彼はスチールを木材や革と同等の芸術的価値を持つ素材と考え、初期のスチール片を用いた作品で、この新しい素材の可能性にすぐに夢中になりました。彼のデザインには、マットクロームメッキスチールや、ステンレススチール が頻繁に用いられています。また、金属を溶接するのではなく、ネジで接合する方法を開発し、これは要素とその機能を際立たせるものでした。スチールの表面に当たる光の反射も、彼の芸術作品における重要な要素でした。

スチールに加え、彼は革、籐、ガラス、ハリヤード、石、キャンバス、木材など、多様な素材を組み合わせることに長けていました。特に、革や籐、ハリヤードといった時間の経過とともに美しさを増す素材を好み、染料やワニスを避け、素材の自然な色、特に未染色の革、中でも黒を可能な限り使用しました。多くの椅子やソファで革が座面や背もたれに使用され、スツールPK 33では革のクッションが特徴的です。

ケアホルムは自身を「デザイナー」ではなく**「建築家」**と捉えており、彼の家具は単なる物体ではなく、それが置かれる空間との関係性を重視し、空間をサポートし、強調する要素として機能しました。彼の作品には、彫刻的な側面と建築的な側面という二つの原則が発展的に見られます。細部に偶然はなく、すべてが構造的なコンセプトを明確にするように設計されています。

本書には、彼の初期の卒業制作であるばね鋼とハリヤードの椅子や、PK 9、PK 13、PK 33、PK 54テーブル、PK 61ソファテーブル、PK 24シェーズロング、PK 20イージーチェア、PK 12チェア、PK 40テーブル、PK 101キャンドルホルダー など、彼の代表的な作品の図面や写真が多く収録されています。また、彼の展示会デザイン(ミラノトリエンナーレ1960 や Ole Palsby showroom 1965、Mobilier International Paris 1965 など)や、彼の家具がデンマークの建築空間(Jørn Utzon や Erik Christian Sørensen、Poul Kjærholm自身の家など)で使用されている例も紹介されており、彼の家具が空間とどのように調和し、相互作用するかを示しています。

本書は、第一級の家具専門家や建築家によって執筆され、ケアホルムの人生や作品の異なる側面を明らかにしています。彼の長年の協力者であったEivind Kold Christensenや、写真家Keld Helmer-Petersen など、彼を支えた人々にも言及しています。全体として、この書籍はプーリング・ケアホルムの家具デザインの深い洞察、素材への熟達、そして時代を超越したエレガンスを探求し、彼の作品がなぜデンマークデザインの重要な一部であり続けるのかを専門的に提示しています。

 


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目次 (Table of Contents)

184 Index

7 Foreword by Jørn Utzon

8 Architect and Furniture Designer by Erik Krogh

38 Exhibitions and Special Spaces by Nils Fagerholt

72 Setting a Standard by Ole Palsby

80 Poul Kjærholm, 1955-1980 Photographs by Keld Helmer-Petersen

138 An architect – Not a Designer by Ulf Hård af Segerstad

144 Lightness and Weight by Christoffer Harlang

158 A Conversation with Poul Kjærholm by ATAK

166 Biographical resumé

168 List of Works, 1948-1980


Furniture

  • PK 0, 1952: 2枚のシェルでできた黒漆塗りの積層木製椅子。
  • PK 9:
    • 1953年のスチールワイヤー椅子。これはPK 9の最初のバージョンとされています。三脚椅子とも呼ばれています。
    • 1961年のモデル。マットクロームメッキスプリングスチールとレザー製。
  • PK 25, 1951: (図面が掲載されています)。
  • PK 13, 1974: アームチェア。マットクロームメッキスプリングスチールとレザー製、またはマットクロームメッキスチールとレザー製。
  • PK 54, 1963: 「リーブス」付きの丸いテーブル。マットクロームメッキスチールとイタリア産大理石またはポルスグルン大理石製で、メイプル材の「リーブス」付き。
  • PK 61, 1955: ソファテーブル。マットクロームメッキスチールとガラス、スレート、または大理石製。特にポルスグルン産フリントロール仕上げの天板が掲載されています。
  • PK II, 1957: バケットチェア。異形断面スチール、アッシュ材の背板、パーチメントまたはレザーの座面製。PK 61ソファテーブルに合うものとしても言及されています。
  • ネストテーブル (Little nesting tables): PK 61ソファテーブルとバケットチェアに関連して言及されています。PK 71は「スリーネストテーブル」として個別にリストアップされています。
  • PK 71: スリーネストテーブル。黒または白のアクリル天板、正方形断面のスチールフレーム製。
  • 折りたたみスツール (Folding stool): 一般的なタイプとして言及されています。PK 33はスツールです。PK 41は折りたたみ椅子です。
  • 折りたたみ椅子 (Folding chair): 一般的なタイプとして言及されています。PK 41は特定のモデルです。
  • PK 41, 1961: 折りたたみ椅子。マットクロームメッキスチールにキャンバスまたはレザーの座面製。
  • PK 22, 1955:。マットクロームメッキスプリングスチール、キャンバス、レザー、または籐製。
  • PK 24, 1965: シェーズロング。マットクロームメッキスプリングスチール、籐の座面、レザーのヘッドレスト製、またはステンレススチール、籐またはレザー製。
  • PK 20, 1967: イージーチェア。マットクロームメッキスプリングスチール、レザーまたはキャンバス製。シェーズロングとしても記述されています。
  • PK 12, 1962:。クロームメッキスチールチューブ、レザーまたはパーチメントの座面製、またはマットクロームメッキスチールチューブ、レザーまたはダック製。
  • 屋外家具 (Outdoor furniture): 1954年にヒョリング市のためにデザインされたコンクリート製ベンチ。
  • PK 33, 1958: スツール。マットクロームメッキスチール、合板、ゴム製。レザーのクッション付き。
  • PK 1, 1956:。マットクロームメッキスチールチューブ、籐製。
  • PK 2, 1956:。マットクロームメッキスチールチューブ、レザー駆動ベルト製。
  • PK 3, 1956:。マットクロームメッキスチールチューブ、ハリヤード製。
  • PK 55: ワークテーブル。天板はメイプル、オレゴンパイン、またはマホガニー、フレームは異形断面マットクロームメッキスチール製。ソファテーブルとしても利用可能。
  • PK 80: 長方形のデイベッド。スチールフレーム、レザーマットレス、合板、レザーラグ製。
  • PK 40, 1980: テーブル。マットクロームメッキスチール、レザーで覆われたブロックボード製。

Review

この本は、デンマーク家具デザインの歴史において特別な存在であるポール・ケアホルムの作品と哲学に深く迫る一冊です。彼のデザインは、機能性から生まれる純粋な形態を追求し、「機能の一部としての形態作り」という目標を妥協なく推し進めた結果です。そこには無駄がなく、素材(スチール、レザー、籐、ガラスなど)への深い洞察と、それらを組み合わせる比類なき感覚が息づいています。彼の作品は、構造的なコンセプトが明確であり、すべてのディテールがそれを強調するために存在しています。最小限に抑えられた寸法の中に、デンマーク家具デザインには類を見ない抒情的なエレガンスが宿っているのです。

本書は、彼の仕事を様々な角度から捉えています。ヨルン・ウツソンによる序文に始まり、建築家としての視点からそのデザインを論じた章、展示デザインに焦点を当てた章、彼の品質基準について語る章など、各分野の一流の専門家や建築家が執筆しています。また、本書の大きな魅力は、彼の友人であり写真家であるケルド・ヘルマー=ペターセンによる1955年から1980年までのケアホルムの作品写真を多数収録している点です。これらの写真は、彼の作品が持つ精緻な美しさや、空間との関係性を鮮やかに捉えています。

ケアホルムが自身を「デザイナーではなく建築家」と見なしていたという視点や、彼の作品における「軽さと重さ」という対比、そして彼自身の言葉に触れることができる「会話」の章など、多角的な視点から彼の人物像とデザイン哲学に迫ります。巻末には、詳細な作品リストや経歴も掲載されており、彼の仕事を体系的に理解するための資料としても貴重です。

この本は、ポール・ケアホルムの独特な世界観、素材への探求、そして時代を超えて輝く洗練されたデザインの秘密を解き明かします。彼のファンはもちろん、デンマークデザインやモダニズムに関心のある方にとって、彼の稀有な才能と哲学を深く知るための必携の一冊となるでしょう。


Poul Kjærholmの家具デザインにおける「form follows function」の追求とは

Poul Kjærholm(ポール・ケアホルム)氏の家具デザインにおける「form follows function」の追求は、彼が家具を通じて実現しようとした独自の哲学と方法論に深く根差しています。ソースからは、「form follows function」という言葉自体は直接的に引用されていませんが、彼のデザインの目標やアプローチが、まさに機能性から導き出される形態の追求であったことが示唆されています。

具体的には、以下のような点に彼の追求を見ることができます。

  • 目標としての「makeing form a part of function」:ケアホルム氏の仕事の目標は「形態を機能の一部とする」ことでした。これは、装飾などの余分な要素を削ぎ落とし、純粋な機能的な形態のみを残す「浄化」のプロセスとして説明されています。この結果生まれた形態は、時代を超えた普遍的なタイプとなったと考えられています。
  • 素材の論理的な使用と構造の明確化:スチール、レザー、籐、ガラスといった素材の使い方や、それらを組み合わせる方法は非常に論理的でした。すべての細部が偶然ではなく、部品が何を受け止め、何が支えられているのかという構造的な概念を明確にするのに役立っていました。彼の素材に対する感覚と、それらがどのように組み合わされるかは比類ないものでした。
  • 「タイプを創造する」というコンセプト:「タイプを創造する」ことは、ケアホルム氏が絶えず集中的に取り組んだコンセプトの一つでした。家具デザイナーとしての仕事においてタイプを創造することは非常に稀有で望ましいことであり、彼は何も加えたり引いたりできない継続的な統合を目指しました。1974年のアームチェア(PK 13)の例は、デザインが生産開始後にアームレストが落ちて崩壊したことから、彼の思考プロセスと芸術的要件がどれほどラジカルであったかを示しています。
  • 伝統と革新の融合:彼は、古いモチーフ(例えば、エジプトやギリシャのストゥールや折りたたみ椅子)からインスピレーションを得ましたが、それらを単に模倣するのではなく、本能的な反復を避け、芸術的に刺激的な形に変容させました。
  • 要素の最小化と質の重視:エイヴィン・コールド・クリステンセン氏との共同作業において、ケアホルム氏は非常に合理的な原理に基づき、少ない要素で高品質な家具を作り出すという、明快な目的で家具を形成しました。彼は、少ない要素を持つ家具は、より多くの要素を持つ家具よりも重要性が低く、摩耗に対して脆弱になりがちだと考えていましたが、それは生産において非常に経済的でした。
  • 正確さへのこだわりと職人技:ケアホルム氏の作品における精度へのこだわりは特筆すべき点です。彼は経験と技術の組み合わせによって質の達人となり、目と訓練された手によって培われたニュアンスが建築表現における決定的な重要性を持つに至りました。
  • 空間との関係性:ケアホルム氏の家具は、単に独立したオブジェクトとして存在するだけでなく、それが置かれる部屋や空間を豊かにする建築的な要素としても機能しました。彼は「デザイナー」ではなく「建築家」と見なされることを好みました。

このように、Poul Kjærholm氏の家具デザインにおける「form follows function」への追求は、機能性の本質を見極め、それを最も論理的で洗練された形態として表現することにありました。彼の作品は、素材の誠実な使用、構造の明確さ、そして不要なものを徹底的に排除した結果として生まれた、時代に左右されないタイプを創造することを目指していました。


素材へのこだわり

ケアホルムの作品は、素材、特にスチールや革の革新的な使用によって特徴づけられています。

ケアホルムの素材の使用、特にスチール、革、籐、ガラスなどは、完璧にまで高められていました。彼は素材に対する類まれな感覚と、それらを組み合わせる方法を持っており、それは極めて論理的でした。彼の家具は、自然な尊厳を持ち、柔軟でしなやかでありながら、しばしばその本来の構想と経験された方法を忘れさせるものでした。

スチールの使用

  • ケアホルムは、自身の作品のベースとして、レオナルド・ダ・ヴィンチの人体図の複製と人間の身体のプロポーションを取り上げました。彼は家具を判断するための基準が必要だと述べています。
  • 彼は当初指物師として修行しましたが、スチールの可能性に魅了されました。特に、スチール片を使用した初期の作品を通じて、彼はこの新しい素材の可能性にすぐに夢中になりました。
  • 彼の1952年の卒業制作は、ばね鋼でできた椅子で、座面と背もたれはハリヤード(ロープ)でできており、技術的にも美学的にも革新的であるとして、注目を集めました。これは、デンマークおよび国際的な家具デザインにおける新しいテーマの始まりを示唆するものでした。
  • 彼は、スチールは木材や革と同じ芸術的な価値を持つ素材だと考えていました。デンマーク装飾美術館に展示されていたスチールと革でできた古い家具は、新しい作品よりもはるかに美しいと感じていました。
  • 彼の作品では、マットクロームメッキスチールが頻繁に使用されています。
  • 彼は、金属を溶接して一体構造にするのではなく、ネジを使って金属を接合する方法を開発しました。これは、要素とその機能を際立たせるものでした。
  • スチールの表面に当たる光の反射は、彼の芸術作品における重要な要素でした。
  • 彼は、スチールに木材、ガラス、石、革、キャンバス、籐、ハリヤードなど、他の素材を組み合わせて使用することが多かったです。例えば、PK 54テーブルでは、磨かれた木材とマットクロームメッキスチール製のサポートとの対比が見られます。PK 61ソファテーブルでは、スチールとガラス、スレート、または大理石の天板を使用しています。
  • 彼のスチール使いは、スチールワイヤーチェア(1953年)において、「絶妙なバランスの傑作」と称され、彼の彫刻的なアプローチの頂点と見なされています。

革の使用

  • ケアホルムは、布地よりも、、籐、ハリヤードなど、時間の経過とともに美しくなる素材を好んで使用しました。
  • 彼は、素材の自然な色を可能な限り使用することを好みました。特に未染色の革、中でも黒を好みました。染料やワニスを使うことは避けていました。
  • 革は、多くの椅子やソファの座面や背もたれ、あるいは他の素材との組み合わせで使用されています。PK 9(1961年)やPK 13(1974年)などが革を用いた例として挙げられます。
  • PK 33スツール(1958年)では、革のクッションが使用されています。

ケアホルムは、素材の選択と組み合わせにおいて卓越した感覚を発揮し、特にスチールと革を革新的かつ論理的に使用することで、彼の家具に独特の軽快さ、重厚さ、エレガンス、そして時代を超えた性質を与えました。


デンマークデザイン運動の文脈

Poul Kjærholm氏の家具は、デンマークデザイン運動において非常に重要な位置づけをされています。特に1950年代から60年代にかけて、デンマーク家具デザインはBørge Mogensen、Hans J. Wegner、Finn Juhl、Ole Wanscher、Kaare Klintといったデザイナーたちの作品によって頂点を迎えましたが、Poul Kjærholmの創造物にはその最も静穏な形態が見出されました。

彼の作品は、機能性をデザインの一部とするという目標を妥協なく追求した結果です。それは余計な要素を削ぎ落とし、純粋な実用的な形態が非常に明確に現れる浄化、カタルシスのプロセスでした。これにより、彼のデザインは時間や場所に縛られない、タイムレスなタイプとなりました。

Kjærholmは素材の選択と使用において独自の感性を持っていました。木材だけでなく、スチール、革、籐、ガラスといった多様な素材を使い、それらを組み合わせる方法にも長けていました。彼の作品は、各要素が何を受け止め、何によって支えられているかが明白であり、接合部も極めて論理的でした。ディテールに偶然はなく、すべてが構造的なコンセプトを明確にするのに役立っています。彼は素材の持つ質感や特性に敏感であり、特にスチールの可能性に魅了されていました。

他のデンマークの家具デザイナーたちが主に木材を用いていたのに対し、Kjærholmがスチールや他の素材を積極的に取り入れたことは、デンマークの家具デザインの伝統の中で革新的でした。彼は、伝統に根差しながらも、素材への取り組み方や明確な構造コンセプトによって、それまでの流れとは異なる新しい表現を生み出しました。彼の作品は、デンマークのクラフツマンシップの質の高さと建築的な規律を国際的な普遍性へと昇華させました。

彼は自身の仕事を**「デザイナーではなく建築家」として捉えていました。この視点は、彼の家具が持つ彫刻的、建築的な側面**に反映されています。彼の家具は、単なる物体として存在するだけでなく、それが置かれる空間との関係性を重視し、空間自体を活性化させるような性質を持っていました。

Kjærholmの作品は、その品質、シンプルさ、時代を超越した魅力によって、デンマークだけでなく国際的にも高く評価されました。ミラノトリエンナーレでの受賞など、数多くの展示会で注目を集めました。

要約すると、Poul Kjærholm氏の家具は、デンマークデザイン運動の文脈において、機能性の究極的な追求、多様な素材(特にスチール)の革新的な使用、彫刻的・建築的な空間との関係性の重視という点で際立っており、この運動の到達点の一つとして位置づけられる存在です。


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