この書籍は、特に英国人であるフェームリー・フランス(C.W.F. France)氏が、第二次世界大戦後のデンマークにおいて、どのように家具産業のパイオニアとなり、高品質なデザイン家具の工業生産と輸出を成功させたのかを描いています。テレンス・コンラン氏は、ブライアンストン校での同級生であったジェームズ・フランス氏を通じて、その父親であるフェームリー氏の起業家精神とデンマーク家具業界への貢献を知るに至ったと述べています。
若い頃、フェームリー氏はデンマーク人のエリック・ダヴェルコセン氏と出会いました。エリック氏はヨークシャーの製粉所で研修生として英国に来ており、二人の家族が繊維製造業に関わっていたという共通点がありました。1926年にフェームリー氏はエリック氏の家族を訪ねてデンマークを訪れましたが、二人が再会するまでには10年の月日が流れていました。エリック氏がマットレス工場LAMAを経営中に病気になり、フェームリー氏に工場の経営を頼んだことが、フランス一家がデンマークに移住するきっかけとなります。フェームリー氏はマットレス製造という複雑な問題に熱中し、短期間で売上を大幅に伸ばしました。
しかし、デンマークがドイツに占領されると、英国人であったフェームリー氏は逮捕され、デンマークの刑務所に収監された後、ドイツの刑務所へ移送され、5年間にわたって収監されることになります。この収容生活中に、彼は戦争が終わったら何をしたいかという夢を描き、マットレス工場で家具用のスプリングパッドを製造すること、そしてデンマーク人デザイナーと協力して輸出用のフラットパック家具を製造することを考え始めました。これは当時の輸送コスト削減において非常に先見の明のあるアイデアであり、すでにトーネット社が試みていましたが、デンマークでは新しい発想でした。
戦後、フェームリー氏は国連救済復興行政機構(UNRRA)に参加した後、デンマークに戻り、エリック・ダヴェルコセン氏と共に家具メーカーFrance & Daverkosenを設立しました。エリック氏はすぐに亡くなり、フェームリー氏が会社を引き継ぐことになりました。最初はマットレス工場LAMAの事業を立て直し、短期間で売上を飛躍的に伸ばし、市場のリーダーとなりました。彼は最新の米国製機械を導入し、生産性を向上させました。
家具製造事業では、彼は高品質な工業生産家具を目指しました。彼は、「高品質の家具は小規模工房で少量生産される」という従来の考え方を否定し、機械の方が手作業よりも正確かつ安価に加工できると主張しました。重要なのは、仕上げ工程での厳格な品質管理であり、それさえ行われれば工業生産でも職人技と同等の品質が達成できると考えました。また、新しい技術や素材を試す資金力があるのはメーカーであるとも述べています。France & Sonは、創業者が家具職人の訓練を受けていないという点で、デンマークの主要メーカーの中でユニークな存在でした。
フェームリー氏は、デンマーク国外ではほとんど知られていなかったデンマーク家具の国際的な評価を高める上で、重要な役割を果たしました。彼は、デンマークのデザイナーと協力し、高品質で複雑なデザインの家具、特にフィン・ユール氏の作品を、輸出用に平らに梱包(フラットパック)して製造することで、手頃な価格で提供する方法を見つけました。この革新的なアプローチにより、デンマークの素晴らしい家具が世界中で購入できるようになり、生産量の80%が輸出されるようになりました。彼は自社製品がデンマーク家具の「ロールスロイス」として認識されるよう努めましたが、常に価格の重要性を意識していました。
France & Sonは、オーレ・ヴァンシャー氏、ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン氏、そしてフィン・ユール氏 といった著名なデザイナーと提携しました。フィン・ユール氏は特にチーク材を好み、France & Sonはチーク材加工における技術的課題(刃の摩耗)を炭化タングステン合金製カッターで解決し、工業生産でのチーク材使用を可能にしました。France & Daverkosenは、長年にわたり極東からのチーク材購入量で世界一となり、年間約500万クローネに達しました。当初、テーブルトップはすべて無垢のチーク材で製造されていましたが、チーク材の不足により突板への切り替えを余儀なくされました。
彼らは、製品にFrance & DaverkosenまたはFrance & Sonのロゴマークを付けることで、ブランドの識別と品質の保証を図りました。1956年には、クラウス・アクトン・フリース氏によって特徴的な二重のFFロゴがデザインされました。米国では、ジョン・スチュアート社と提携し、フランス&サン社の家具はニューヨーク近代美術館のグッドデザイン賞を受賞し、その名声を高めました。また、ジェームズ・ボンド映画やテレビドラマ「マッドメン」といった当時の有名なメディアにも登場し、最先端の家具トレンドの象徴となりました。
フェームリー・フランス氏は、最高の労働環境が最高の成果に不可欠であると考え、工場を近代化し、従業員の福祉向上にも努めました。しかし、彼は常にアウトサイダーであり、家具製造業者協会への加入を拒否したことで、同業者からは人気がありませんでした。その代わりに、高い賃金を支払うことで優秀な人材を集めました。彼のモットーは「私の家具はロールスロイスの家具でなければならない」と言われていますが、同時に「平均的な品質の家具を製造しており、高級品を目指しているわけではない」「あらゆる環境で使用できる良質なデザインの家具を適正な価格で製造すること」が理念であったとも述べています。
1960年代初頭、彼は疲れが見え始め、南フランスに引退しましたが、デンマークの事業を心配し続け、最終的に会社を売却しました。彼の引退は、デンマーク家具業界で最も個性的な人物が第一線から退くことを意味しました。フレデリック・シエック氏は彼の追悼文で、彼の天才的な才能、変化に富んだ性格、そして抗いがたい魅力に言及し、彼の名がデンマーク家具産業の輸出成長の象徴として神話的な存在に成長したと述べています。
本書は、フェームリー・フランス氏という一人の英国人が、第二次世界大戦中の過酷な経験を経て、戦後のデンマーク家具産業において、工業生産、フラットパック方式、著名デザイナーとの協力、そして強力な輸出戦略を通じて、いかにしてパイオニアとしての地位を確立し、デンマークデザインの世界的成功に貢献したのかを詳細に描いています。彼の並外れた起業家精神と、品質への揺るぎない信念が、この成功の原動力であったことが強調されています。
About
Author
James France
Publisher
Forlaget VITA
Size
24×27 cm(138p)
Content
1. はじめに
2. 英国からデンマークへ
3. 戦争と収容所での歳月
4. 戦後の再出発と家具製造の開始
5. France & Sønの成長と輸出戦略
6. 著名デザイナーたちとの協業
7. 国際的成功とブランドの確立
8. 事業の終焉とその後
9. France & Sønの遺産
Furniture
椅子 (Chairs)
・モデル 109 (オーレ・ヴァンシャー デザイン): ニューヨーク近代美術館からグッドデザイン賞を受賞。
・モデル 110 (オーレ・ヴァンシャー デザイン): ロッキングチェア。デンマーク政府からニキータ・フルシチョフへの贈り物として選ばれ、グッドデザイン賞を受賞。
・モデル 111 (オーレ・ヴァンシャー デザイン): ヴァンシャーのオリジナルデザインに非常に似ている。
・モデル 116
・モデル 119
・モデル 120
・モデル 125
・モデル 127 (チーク材、オーク材あり)
・モデル 128 (チーク材、オーク材あり)
・モデル 129 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 130シリーズのアームレスチェア。
・モデル 130 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 130シリーズのアームチェア。
・モデル 132 (シグヴァルド・ベルナドット伯爵 デザイン): サイン入りバッジ付き。アメリカインテリアデザイナー協会の国際デザイン賞を受賞。
・モデル 133 (フィン・ユール デザイン): 「スペード」チェア。チーク無垢材製、積層アーム付き。ジェームズ・ボンド映画『ドクター・ノオ』に登場。
・モデル 134 (フィン・ユール デザイン): モデル135のアームレスバージョン。
・モデル 135 (フィン・ユール デザイン): 真鍮メッキの金具にチーク材のアームレスト付き。
・モデル 136 (フィン・ユール デザイン): 「ワンチェア」。彫刻的なアームを備え、フィン・ユールの「チーフテンチェア」のジュニア版とも表現される。チーク無垢材のみ。2016年に「ザ・フランス・チェア」として再発売。
・モデル 137 (フィン・ユール デザイン): 「ジャパンチェア」。日本の鳥居にインスパイアされた名称。チーク無垢材のみ。
・モデル 138 (フィン・ユール デザイン):。アームが曲線を描くモデル。
・モデル 139
・モデル 147 L (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 籐製バージョン。ジェームズ・ボンド映画『ドクター・ノオ』やテレビドラマ『マッドメン』に登場。
・モデル 148 L (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 革張りバージョン。
・モデル 152 (フィン・ユール デザイン): 「ブワナ」チェア。アフリカの部族美術からインスピレーション。ジェームズ・ボンド映画『ゴールドフィンガー』に登場。
・モデル 157 L (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 会議用やダイニング用の直立したバージョン。
・モデル 158 L
・モデル 164
・モデル 166
・モデル 167
・モデル 168 (France & Søn デザイン): 「グレート・デーン」チェア。1962年に受賞。
・モデル 189
・モデル 191 (フィン・ユール デザイン): ダイニングチェア。
・モデル 192 (フィン・ユール デザイン): 会議用チェアとして特別にデザインされたアームチェア。
・モデル 193 (インガー・クリンゲンベルグ デザイン): ダイニングチェア (積層合板製背もたれ)。
・モデル 203
・モデル 204
・モデル 205
・モデル 206
・モデル 209 (フィン・ユール デザイン): 「ディプロマット」チェア。国連信託統治理事会会議場にも置かれている。
ソファ / セッティ / カウチ (Sofas / Settees / Couches)
・モデル 111/3 (オーレ・ヴァンシャー デザイン): モデル111に合う3人掛けソファ。
・モデル 128/3 (チーク材、オーク材あり)
・モデル 128/4 (チーク材、オーク材あり)
・モデル 129/3 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): モデル129に合う3人掛けソファ。
・モデル 130/3 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): モデル130に合う3人掛けソファ。
・モデル 137/2 (フィン・ユール デザイン): ジャパンチェアの2人掛けソファ。
・モデル 137/3 (フィン・ユール デザイン): ジャパンチェアの3人掛けソファ。
・モデル 138/3 (フィン・ユール デザイン): モデル138の3人掛けソファ。
・モデル 147/3 L (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): モデル147に合うソファ。
・モデル 148/3 L (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): モデル148に合うソファ.
・モデル 166/3
・モデル 166/4
・モデル 168/3 (France & Søn デザイン): グレート・デーンチェアの3人掛けソファ.
・モデル 168/4 (France & Søn デザイン): グレート・デーンチェアの4人掛けソファ.
・モデル 417 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): ソファ/デイベッド. 映画『博士の異常な愛情』に登場.
・モデル 418
・モデル 417a, 418a, 417ab, 418ab, 419ab, 417abc, 418abc, 419abc, 417abcc, 418abcc, 419abcc (ソファ/カウチの派生モデル).
・モデル 452.
・モデル 453.
スツール / フットスツール (Stools / Footstools)
・モデル 131 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 130シリーズのフットスツール.
・モデル 137 f (フィン・ユール デザイン): ジャパンチェアのフットスツール.
・モデル 140 f.
・モデル 164 f.
・モデル 194 (インガー・クリンゲンベルグ デザイン): モデル193ダイニングチェアに対応するスツール.
テーブル (Tables)
・モデル 15/54 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 長方形コーヒーテーブル.
・モデル 20/59 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 大型楕円形ツインフラップドロップリーフダイニングテーブル (「ガタレージ」テーブル). 19世紀アイルランドの伝統的なテーブルに着想.
・モデル 516 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 籐製の棚付き長方形コーヒーテーブル.
・モデル 518 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 籐製の棚付きランプテーブル.
・モデル 521 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): モデル518の幅広バージョン.
・モデル 523 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 小さな三面テーブル.
・モデル 524 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 3台で円形を形成できるテーブル.
・モデル 534 (フィン・ユール デザイン):.
・モデル 596 (ピーター・ヴィット&オルラ・モルガード・ニールセン デザイン): 130シリーズのコンパニオンコーヒーテーブル. 天板に突板が使用されたフランス&サン初のテーブル.
・モデル 906 (フィン・ユール デザイン): ディプロマットシリーズの会議用テーブル.
・モデル 952 (フィン・ユール デザイン): ディプロマットシリーズのデスク.
Review
『France & Søn – British Pioneer of Danish Furniture』は、デンマークの家具メーカー「France & Søn」の成り立ちと躍進を、創業者の息子であるジェームズ・フランスが記録した一冊です。戦後の北欧デザインが世界的に注目を集める中で、同社がどのようにして国際市場を開拓し、デンマーク家具を輸出産業へと育て上げたのかが、詳細かつ実証的に描かれています。
創業者C.W.F.フランスは、英国出身の実業家で、家具職人でもデザイナーでもありませんでした。しかし彼は、分解・再組立て可能な「フラットパック」式の家具を大量生産し、品質管理と物流の面でも工夫を重ねることで、デンマーク製の椅子やテーブルを欧米市場で通用する製品へと仕立てました。工芸的な家具づくりが主流だった時代にあって、彼のアプローチはきわめて現代的で、革新的だったといえるでしょう。
France & Sønは、フィン・ユール、オーレ・ヴァンシャー、ピーター・ヴィットとオルラ・モルガードなど、当時の一流デザイナーたちと数多くの協業を行いました。それらのデザインは、工業製品として量産されながらも、美しさと機能性を失うことなく、世界中の家庭や公共施設に届けられました。本書には、それぞれのモデルがどのように設計され、どのような技術と工夫で製品化されたのかについても具体的な記録があります。
France & Sønが1950年代から60年代にかけて、デンマーク家具輸出の中核を担っていたことはあまり知られていません。本書は、そうした歴史の空白を丁寧に埋める記録であり、北欧デザインが「作品」から「商品」へと転換するプロセスを、企業活動の視点から捉え直すことを可能にしています。
単なる家具の歴史にとどまらず、デザインと産業、クラフトと工業、国内市場と輸出市場といったテーマを横断する内容となっており、デザインに関わる幅広い読者にとって価値のある書籍だといえるでしょう。デンマーク家具の表層的な美しさだけでなく、その背後にあった構造的な努力と創意を知ることができる一冊です。