本書「Carl Hansen & Son 100 years of craftsmanship」は、デンマークの家具メーカーであるカール・ハンセン&サン社が、創業100周年を迎えたことを記念して出版されました。本書には、これまでの顧客や関係者への感謝の気持ちと、100年の歴史に対する会社の誇りが込められています。
物語は、創業者のカール・ハンセン氏から始まります。彼は単なる事業家ではなく、父親から受け継いだ職人としての確かな腕と誇りを持ち、品質への強いこだわりを持って家具製作に取り組みました。彼は自己資金を元に、1908年10月28日にデンマークのオーデンセで小さな家具工房を開設しました。当初は一人で注文生産を行っていましたが、勤勉な仕事と誠実な対応により事業を拡大し、工房を大きくしていきました。経済的に困難な時代にも直面しながら、効率化と生産能力向上のため、1936年にはオーデンセ郊外に新しい工場を建設しました。彼は1943年に息子のホルガー・ハンセン氏に経営を委ね、1959年に亡くなりました。
続く第二世代の時代は、息子のホルガー・ハンセン氏が会社を継承し、困難な経営状況の中で事業を支えました。経営効率化を重視する一方、家具業界での活動を通じてネットワークを広げました。この時代の重要な出来事として、1957年に輸出市場開拓のために設立された共同販売会社Salescoへの参加がありますが、運営上の課題や国際市場での苦戦を経て、最終的に1972年にSalescoは解散します。しかし、この時代における最大の転機は、ハンス J. ウェグナー氏との協業開始です。1949年以降、Y-チェア (CH24) をはじめとするウェグナー作品の生産が始まり、その複雑な構造や高い品質基準が生産体制に大きな影響を与え、会社の経営を左右するほど重要な製品となりました。ウェグナー作品は、カール・ハンセン&サン社のアイデンティティを確立する上で不可欠な要素となったことが示されています。
第三世代として経営を引き継いだのは、クヌード・エリック・ハンセン氏とヨルゲン・ゲアナ氏です。彼らは困難な経営状況を継承しましたが、伝統を重んじつつも、大胆な改革を断行しました。新しいデザイナー(ピーアントなど)や製品ラインの導入、生産体制と品質管理のさらなる強化、そして国際市場への積極的な展開 が進められました。特に日本市場での成功は、この時代の大きな成果の一つとして詳しく語られています。過去の名作の復刻(トラネケアファニチャー社の買収など) や、伝統的な職人技と現代技術の融合についても触れられており、困難を乗り越えながらも、一貫して品質、デザイン、そして職人技への敬意を大切にしてきた会社の姿勢が描かれています。
本書は、カール・ハンセン&サン社の100年の歩みを、単なる企業の歴史としてだけでなく、デンマーク家具産業の変遷、デザイナーとメーカーの関係性、そして国際市場への挑戦といった幅広い視点から捉えています。家族経営ならではの強さや、歴代のリーダーたちの情熱と決断が、この豊かな歴史と、次の100年へと続く会社の未来を築き上げてきたことが伝わる一冊です。
About
Author
Carl Hansen & Son
Publisher
Carl Hansen & Son
Size
22 × 28.5 × 1.5 cm(147ページ)
Content
1.はじめに
・100周年を迎える感謝と誇り
2.創業と黎明期(カール・ハンセン)
・1908年、オデッセでの工房開設
・品質へのこだわりと初期の挑戦
3.ホルガー・ハンセンの時代
・困難な時期の事業継承と経営
・家具業界での活動とネットワーク
・共同販売会社 Salesco の設立と輸出市場への挑戦
・ハンス J. ウェグナーとの協業開始
・Y-チェア (CH24) の誕生と成功
・ウェグナー作品の生産と品質管理
4.第三世代の改革と成長(クヌード・エリック・ハンセンとヨルゲン・ゲアナ)
・経営の継承と困難な状況からの再建
・新しいデザインとデザイナーの導入(例:ピーアント、エアポートチェア)
・生産体制と工場の変革 国際市場、特に日本市場への展開と成功
5.製品の復刻とブランドの未来
・過去の名作(特にウェグナー作品)の復刻
・伝統と現代の融合 世界的なブランドとしての地位
6.資料
Review
本書は、カール・ハンセン&サン社が100周年を迎えた記念として、創業以来の歴史とクラフトマンシップを丁寧に紐解く一冊です。創業者カール・ハンセン氏の品質へのこだわり、ホルガー・ハンセン氏の経営手腕、そしてハンス J. ウェグナー氏との運命的な出会いとY-チェア (CH24) をはじめとする名作の誕生は、会社の歴史に不可欠な要素として語られます。
また、クヌード・エリック・ハンセン氏とヨルゲン・ゲアナ氏による第三世代の時代には、困難な状況下での改革と、新しいデザインの導入、そして日本を含む国際市場への成功といった新たな挑戦 が描かれており、世代を超えて受け継がれる情熱と決断が、100年の歩みを支えてきたことが強く伝わります。
品質と職人技を核に、時代の変化や幾多の困難を乗り越え、優れたデザインとともに歩んできたカール・ハンセン&サン社の豊かな歴史と精神。本書は、単なる企業の記録に留まらず、未来への確かな一歩を踏み出す彼らの誇りと感謝、そして次の100年への挑戦が凝縮された、貴重な証と言えるでしょう。