About
Designer: Kai Kristiansen(カイ・クリスチャンセン)
Manufacturer: Aksel Kjersgaard(アクセル・ケアスゴー)
Year: 1956
Material: Rosewood
Size: W 118 × D 36 × H 52 cm
Story
本作は、直線を基調とした端正なプロポーションに、使用時の所作を妨げない静かな存在感を与える設計です。前板から天板へと連続する面構成は木目の流れを強調し、視覚的なノイズを抑えながら素材の魅力を丁寧に引き出します。寝室からリビングまで、置かれる空間に過度な主張を残さず、秩序をもたらすことを意図しています。
意匠の焦点は、前板に穿たれた円形の手掛けです。指先が自然に収まる浅いえぐりは、金具を用いずに操作性と面の連続性を両立させます。フラットな面に穏やかな陰影を生み、控えめながら確かな個性を付与します。
構造は、軽やかな見え方と耐久性の両立を目標に組み立てられています。脚部は下方へ穏やかにテーパーを取り、見付けを細く保ちながら曲げ剛性を確保します。引き出しは精度の高い木工接合により箱体の歪みを抑え、底板の納まりまで含めて長期使用を見据えた安定性を確保しています。日常の開閉は滑らかで、操作感が一定に保たれる設えです。
素材はローズウッドを中心に、用途に応じて単板と無垢材を適材適所で使い分けています。前板はブックマッチなどの割付で木理の連続性を整え、面全体に統一感と奥行きを与えます。フレームや脚など荷重のかかる部分には無垢材を配し、反りや割れに対する安全域を確保します。表面はエッジの面取りや艶のコントロールまで含めて繊細に仕上げられ、触れたときの印象が設計意図と一致するよう調整されています。
製作を担うアクセル・ケアスゴー工房は、細部の精度と仕上げ品質に重心を置く体制で知られます。機械加工と手仕事を往復しながら、脚のプロポーションや抽斗内部の仕様まで微調整を重ね、量産の安定性と手工の品位を同居させています。デザイナーとの緊密なやり取りを通じて、設計の狙いを外観・構造・操作感に一貫して反映させている点が本作にも明瞭です。
誕生の背景には、戦後の住空間で求められた薄型収納への需要があります。限られた奥行きと適度な高さは、壁面への納まりを良くし、上部の水平面をディスプレイや作業に活用できるよう計画されています。結果として、本作は生活の導線を乱さず、日常の所作に静かに寄り添う収納として機能します。
総じて「394 Chest of Drawers」は、素材の表情、操作の確かさ、空間への収まりを過不足なく結び合わせた設計です。過度な装飾に頼らず、用と美の均衡によって格式をたたえ、時間の経過に耐える普遍性を備えています。