About
Designer: Ib Kofod-Larsen(イブ・コフォード・ラーセン)
Manufacturer: Christensen & Larsen(クリステンセン&ラーセン)
Year: 1956
Material: Oak, Rosewood, Teak, Leather, Wool
Size: W79 × D75-76.5 × H71 cm / SH36-37 cm
Story
U-56 エリザベスチェアは、1956年にイブ・コフォード・ラーセンが発表した作品です。彼は「構造と外観の調和」という哲学を持ち、芸術性と機能性を両立させた家具を数多く手掛けました。その成果がもっとも鮮やかに結実したのが、この椅子です。当初は「モデルU-56」と呼ばれ、コペンハーゲンの職人組合展示会にて発表されました。展示と同時に高い評価を受け、その彫刻的なフォルムと優れた座り心地は瞬く間に話題となりました。
1958年には、イギリス女王エリザベス2世がデンマークを公式訪問した際にこの椅子を購入しました。これを契機に「エリザベスチェア」と呼ばれるようになり、作品は歴史的な逸話を伴う特別な存在へと昇華しました。このエピソードは単なるネーミングを超え、椅子そのものに象徴的な意味合いを付与し、国際的なデザイン史に確固たる地位を刻むことになりました。
椅子の特徴的な要素は、外側へ波のように広がるアームレスト、低く設定された座面、体を包み込む背もたれです。これらは視覚的な軽やかさと構造的な強度を両立し、使用者に心地よさを与えると同時に、彫刻作品のような美を備えています。イブ・コフォード・ラーセンは人間工学を重視し、リクライニング気味の角度や腰部を支えるラインを設計に盛り込みました。そのため、座った瞬間に安心感とリラックス感が得られる仕様となっています。
素材には当時の最高級木材であるチークやローズウッド、オークが用いられ、張り地には革やウールが採用されました。木材は職人が一点ごとに選び抜き、木目や質感を最大限に生かす仕上げが施されました。フレームはシームレスに連続する構造を持ち、接合部が目立たない高度な木工技術が活かされています。長年使われた革や木部には経年変化が現れ、ヴィンテージ品ならではの深みを備えています。
オリジナルの製造を担ったのはクリステンセン&ラーセンであり、その仕事はデンマーク家具黄金期のクラフトマンシップを象徴します。現在、この名作は世界で二つのルートによって復刻されています。ひとつはコペンハーゲンを拠点とする Audo Copenhagen による復刻で、CNC加工と手作業を組み合わせ、伝統的なデザインを現代の生活に取り入れやすい形で再生産しています。もうひとつは日本・飛騨高山の木工メーカー KITANI による復刻で、デンマーク本国から正規ライセンスを受け、精緻な木工技術と日本の職人精神によって忠実な再現を行っています。これにより、エリザベスチェアはデンマークのみならず日本においても生産が続き、デザインの普遍的価値を世界に広めています。
こうしてU-56 エリザベスチェアは、オリジナル、ヴィンテージ、そして現代の復刻を通じて多層的な存在となり、文化的遺産としての地位を確立しました。その姿は、単なる椅子を超えて、歴史・技術・デザイン哲学の結晶として今日も世界中で愛され続けています。