AP28 Mama Bear Chair | ママベアチェア


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: AP Stolen(APストーレン) / Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1954
Material: Oak, Teak, Fabric, Leather
Size: 幅 75 × 奥行き 84 × 高さ 97 cm


Story

ママベアチェア(AP28)は、1954年にハンス・J・ウェグナーがデザインし、APストーレンによって製造されたラウンジチェアです。代表作であるパパベアチェア(AP19)と同時期に生まれた本作は、その名が示す通り「母熊」のような優しさと包容力を備えています。パパベアが堂々とした存在感を誇るのに対し、ママベアはより軽やかで柔和な佇まいを特徴とし、ウェグナーの多様な解釈を示すもう一つの傑作といえます。

デザインの要点は、高い背もたれと両側に広がるウィング部分にあります。これにより頭部や肩を優しく支え、全身を包み込む安心感を提供します。座面は低めに設計され、女性でも自然に足が床につく安定感を得やすく、人間工学的な配慮が随所に反映されています。また、アームの先端には熊の手(Bear Paw)を象った意匠が施され、力強さと優しさを象徴的に表現しています。

APストーレンによる製造では、馬毛や麻、ヤシ繊維など複数の天然素材を何層にも重ねる伝統技法が用いられました。その結果、弾力性と耐久性に優れ、深く腰掛けても快適さを失わない座り心地が生まれています。現在では再現が難しい複雑な内部構造が、この椅子の唯一無二の価値を形成しています。

オリジナルのAP28は、APストーレンの廃業によりヴィンテージ品としてのみ存在します。状態や張り地のオリジナリティにより評価が左右されますが、再張り替えが行われた個体も実用性の観点から新しい価値を持っています。市場では一点物として高く評価され、デンマーク・モダンの歴史を象徴する存在となっています。

後年、カール・ハンセン&サンがCH78として復刻を行いました。オリジナルの精神を忠実に継承しながら、現代人の体格や環境基準に合わせた素材と寸法が採用され、普遍的な快適さを提供しています。オリジナルの希少性を重んじるか、日常的にウェグナーの快適さを楽しむか、選ぶ基準は所有者の価値観に委ねられます。どちらを選んでも、この椅子が持つ魅力と遺産は揺るぎません。

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