About
Designer: Poul Kjærholm(ポール・ケアホルム)
Manufacturer: Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1952
Material: Molded plywood
Size: W76 × D66 × H38 cm
Story
PK0 Shell Chairは、ポール・ケアホルムが若くして手掛けた最初期の作品であり、彼のデザイン哲学の原点を示す重要な存在です。1952年にフリッツ・ハンセンでデザインされ、成形合板を駆使して背と座を一体化させた流れるような曲線を持つ構造が特徴です。当時の技術的限界に挑戦する意欲が明確に表れています。
商業的には量産されることはなく、同時期に進められていたアルネ・ヤコブセンのアントチェアの開発が優先されたため、PK0は幻の傑作として知られるようになりました。しかしこの経験がケアホルムの進路を決定づけ、木材からスチールへと関心を移し、「工業製品としての家具」を追求する契機となりました。
造形的には、ヘンリー・ムーアやバーバラ・ヘップワースなど彫刻家からの影響が指摘されており、椅子でありながら彫刻的な存在感を放ちます。また、2枚の合板をゴム製スペーサーで結合するシンプルな構造は、イームズ夫妻のLCWチェアに触発されつつも、より少ない要素で成立する独自の簡潔さを備えています。
その後、1997年にはフリッツ・ハンセン創業125周年記念として600脚限定で復刻され、2022年には「PK0 A」として再生産されました。復刻版はオレゴンパインやブラックアッシュが用いられ、朱色のスペーサーが象徴的なデザイン要素となっています。これにより、PK0 Shell Chairは単なる歴史的試作品ではなく、現代空間にも溶け込む普遍的なデザインとして再評価されました。
PK0 Shell Chairは、素材の持つ自然な表情を活かし、装飾を排した純粋な造形美を追求するケアホルムの姿勢を示しています。その哲学は後のスチール作品群にも受け継がれ、今日に至るまで変わらず影響力を持ち続けています。経年変化によって生まれる風合いも、この椅子が持つ本質的な美しさをさらに深めています。