About
Designer: Poul Kjærholm(ポール・ケアホルム)
Manufacturer: E. Kold Christensen(E. コールド・クリステンセン) / Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1958
Material: Steel, Leather, Down
Size: W198-199 × D74-76 × H76 cm / SH38 cm / AH48 cm
Story
ポール・ケアホルム(1929–1980)は、木材を中心としたデンマーク家具界において、スチールを主素材に据えるという革新的な選択をした異色のデザイナーです。彼は自らを「家具建築家」と称し、家具を単体ではなく空間全体の構成要素として捉えました。その思想はPK31シリーズ、とりわけPK31/3に明確に示されています。
1958年に発表されたPK31シリーズは、モジュール構造を特徴とします。1人掛けのPK31/1を連結して2人掛けや3人掛けのソファを構成することが可能で、空間に応じて柔軟に変化する設計思想が反映されています。特にPK31/3は、連続性と軽やかさを兼ね備え、住宅や公共空間においても存在感を発揮しました。
視覚的に最も際立つのは、座面が床から浮遊しているように見える独特の構造です。脚部を中央に集約させることで、重量感を打ち消し、軽快な印象を与えています。この「浮遊感」は、空間に余白と緊張感をもたらし、従来の重厚なソファの概念を刷新しました。
素材選びにもケアホルムの哲学が現れています。フレームにはマットクローム仕上げのスプリングスチールが用いられ、強度と柔軟性を兼ね備えています。クッションにはダウンが詰められ、見た目のシャープさとは裏腹に柔らかく身体を受け止めます。レザーも厳選されたもので、時間の経過とともに深みを増す経年変化を楽しむことができます。
製造は当初、ケアホルムと深い協力関係にあったE. コールド・クリステンセン社が担いました。その後、1982年以降はフリッツ・ハンセン社が製造を引き継ぎ、現在もケアホルムの遺志を受け継いでいます。初期のE.K.C.製品には独自の刻印が施されており、ヴィンテージ市場では特別な価値を持っています。
今日、PK31/3はニューヨーク近代美術館(MoMA)やヴィクトリア&アルバート博物館に収蔵され、単なる家具ではなく、20世紀デザイン史を象徴する芸術作品として位置づけられています。その普遍的な魅力は、時代や文化を超えて愛され続ける理由を明確に物語っています。