Cabinet | キャビネット


About

Designer: Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)
Manufacturer: Mikael Laursen(ミカエル・ラウルセン)
Year: 1942
Material: Oak, Teak inlay, Brass/Teak handles
Size: W 122 × D 49.5 × H 153.5 cm


Story

本作は、ハンス・J・ウェグナーが指物師ミカエル・ラウルセンと協働し、1940年代前半に制作した希少なキャビネットです。戦中・戦後の機能主義が強まる時期にあって、伝統的な手彫り装飾と合理的な構成を同時に成立させた点に本作の独自性があります。後年の純化されたフォルムへ至る以前、ウェグナーが自らの言語を模索した「過渡期」の証言として位置づけられます。

前面スライド扉の彫刻は、幾何学性と有機性を併せ持つ意匠で、どんぐりを想起させるモチーフにティークの象嵌を配した個体が確認されています。素材のコントラストを活かす構成は、木材の性質を読み解き最小の手数で最大の効果を引き出すウェグナーの思考に通じ、後年の接合やプロポーションの美へと収斂していく起点を示しています。

構造は無垢オーク材を主体とし、内部に可動棚と引き出しトレイを備え、書類やテキスタイルなど多用途に配慮した機能的レイアウトです。把手は真鍮またはティークのバリエーションが見られ、前扉の象嵌との素材的統一を図る個体も存在します。

本作が特に重要なのは、ウェグナーとラウルセンの協業がきわめて限定的であった点にあります。長期に及ぶヨハネス・ハンセンとの関係と異なり、ラウルセンとの仕事は作品数が少なく、結果として現存数が非常に限られています。ゆえに、本作は単なるヴィンテージを超え、初期ウェグナー研究に不可欠な一次資料としての価値を帯びます。

1942年の発表記録が伝わる個体も確認され、同時期に見られる「魚」や「クロコダイル」といった物語性の彫刻作品と並び、装飾と機能の均衡を探るウェグナーの実験精神を端的に示します。伝統技法への敬意とモダニズムの要請を矛盾なく統合しようとする姿勢こそが、本作の時代的意義であり、今日に続く評価の核となっています。

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