Københavnerstolen | コペンハーゲンチェア


About

Designer: Mogens Voltelen(モーエンス・ヴォルテレン)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォダー)
Year: 1936
Material: Beech, Leather, Brass
Size: W 95.5 × D 86.5 × H 95.5 cm / Seat Height 26 cm


Story

1936年に発表された「Københavnerstolen」は、建築教育を受けたモーエンス・ヴォルテレンが、キャビネットメーカーのニールス・ヴォダーとともに形にした初期デンマーク・モダニズムの重要作です。伝統的な木工の技と機能主義的な造形思考が一つの椅子の中で溶け合い、直線と曲線が呼応するダイナミックなフレームに、革のハンモック状の座背がたわみながら受け止められます。

当時の展示文化を支えた職人ギルド展の文脈で磨かれたこの椅子は、前脚と一体化する革ストラップ、後脚の大きなアーチ、真鍮鋲による固定など、ディテールの設計と施工が密接に連動しています。ヴォダー工房が得意とした曲面成形と正確な仕口が、視覚的な流麗さと構造の信頼性を同時に担保している点が本作の本質です。

本稿が対象とするケーススタディは、1940年代にニールス・ヴォダーが製作したブナ材フレーム、ナチュラルレザー、真鍮鋲の個体です。スタンプが付かないヴォダー作例が散見されることは周知であり、この個体も刻印はありませんが、材の選択、断面形状、仕口の精度、革取り付けのピッチや鋲頭の処理といった複合的証拠が工房特有の手跡を示します。スタンプの有無に左右されず、物証の積み重ねで真正性を読むことが、この時代の工房作品の鑑別では重要です。

Københavnerstolenはその後、1960年の「Copenhagen II(通称MV60)」へと展開し、曲線的で装飾性のある初期像から、より幾何学的で引き締まった造形へと語彙を更新しました。とはいえ、革の面が構造と対話するという思想は一貫しており、素材が形を規定し、形が座り心地を規定するという、ヴォルテレンの建築家的思考が全期間を通じて貫かれています。

1940年代製作の本個体に見られるブナの古艶や、自然な経年変化を帯びたオリジナルレザーは、単に味わいという美観を超え、使用環境と時間の情報を蓄えた「履歴」として価値を持ちます。椅子の表情は、材料・構造・仕上げ・使用の四要素が積層して生まれるものであり、その読み解きそのものがコレクションの醍醐味です。

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