About
Designer: Ib Kofod-Larsen(イプ・コフォード・ラーセン)
Manufacturer: OPE Möbler(オーペ・モブラー)
Year: 1957
Material: African teak, Rattan, Fabric/Leather
Size: W 75 × D 68 × H 72.5 cm / SH 39 cm
Story
「オーレ(Åre)809」は、イプ・コフォード=ラーセンがスウェーデンのOPEモブラーのために設計したハイバックのイージーチェアです。戦後のスカンジナビアにおいて、デンマークの設計思想とスウェーデンの生産体制を結びつけるプロジェクトの文脈で生まれました。コフォード=ラーセンは素材の特質を最大限に尊重し、視覚的な軽やかさと構造的な安定性を両立させることを目指しました。その結果として、彫刻的なフレームと通気性の高い背もたれが組み合わさった静謐な座り心地が実現しています。
デザイン背景として、当時のOPEは国際的な審美眼を積極的に取り入れ、デンマーク人デザイナーとの協業を通じて自社のコレクションを刷新していました。「オーレ」は同社のシリーズの中でも、ハイバック特有の安定した支持性と、ラウンジに適した穏やかな傾斜を備えたモデルです。コフォード=ラーセンの設計は、装飾に頼らず、構造そのものの美しさで空間に秩序を与える点に特徴があります。
設計の意図は、人の動作に素直に寄り添うことにあります。背から座へとつながる連続曲線は人間工学的配慮によって実現され、ルーズクッションは身体に沿ってたわみ、姿勢の移ろいを柔らかく受け止めます。座面は適切な通気性と保持力を両立しています。ハイバックは頭部まで自然に支え、長時間の着座でも体になじむ快適性を提供します。多様な空間での活用が期待されます。
構造の特徴は、硬質で寸法安定性に優れたアフリカンチーク(アフロモシア系)をフレームに採用し、背には籐(ラタン)を用いた点にあります。密度の高い木材による剛性と、編組材による軽快さを意図的に対比させ、重量感を抑えつつ視覚的な抜けを確保しています。接合はフレームラインを乱さない堅牢な伝統工法を基調とし、力学的に負荷のかかる箇所を的確に補強することで、しなやかなフォルムと耐久性を両立しています。
デザイナーと工房の関係として、コフォード=ラーセンは設計から試作、量産段階まで細部にわたり関与する姿勢で知られ、OPEの技術陣はその要求精度に応える加工・張りの体制を整えました。OPEは木部加工と椅子張りの分業を的確に束ねる工房であり、同時期の「Seal(Sälen)」や「Candidate」などと共通する生産思想のもと、素材選択と仕立ての質を高水準で管理していました。
工房の移り変わりという点では、1950年代後半から1960年代にかけて、OPEは国際市場を視野に入れた外部デザイナーとの協業モデルを強化し、シリーズ化されたラウンジチェア群を展開しました。「オーレ」はそのラインアップを象徴する一脚で、ハイバックの安定感、軽やかな背の表情、そして洗練された輪郭線によって、同社の方向性を鮮明に示しています。歴史的背景としては、スカンジナビア諸国の間で設計と製造のネットワークが活性化し、素材供給から加工技術、仕上げの美学までが横断的に共有されていった時期に位置づけられます。
まとめると、「オーレ」809は、素材と構造を通じて人間中心の快適性を端正に表現した椅子です。曲線は人間工学的配慮によって実現され、視覚的な軽さと触覚的な安心感を同居させています。彫刻的でありながら控えめな存在感は、居住空間からホスピタリティ環境まで幅広い場に自然に溶け込み、その静かな人格で空間の質を底上げします。