Model70 Desk | デスク


About

Designer: Kai Kristiansen(カイ・クリスチャンセン)
Manufacturer: Feldballes Møbelfabrik(フェルドバレ・モブラー)
Year: 1960
Material: Brazilian rosewood (Dalbergia nigra), steel
Size: W 160 × D 80 × H 72 cm


Story

本作は、カイ・クリスチャンセンがフェルドバレ・モブラーのために設計した独立型デスクで、モデル70として知られています。重厚なブラジリアンローズウッドを主要面に用いながらも、薄く見せるエッジ処理と軽快な脚部によって、空間に圧迫感を与えない軽やかさを備えています。視覚的な存在感と取り回しの良さを両立するという発想は、同時代の機能主義の延長線上にありつつ、素材への敬意を失わないクリスチャンセンらしい態度を示しています。

設計の意図は、ワークトップの“浮遊感”に端的に表れます。天板と支持体の間にわずかなクリアランスを設け、幕板を排した構造は、膝元を広く確保して着座姿勢を自由にし、肘掛け付きの椅子でも奥まで寄せられる実用性を生み出します。左右非対称のストレージ構成は、文具・書類の動線を短く保つための合理であり、金属製の細いハンドルは操作性を高めつつ全体の水平・垂直のリズムを引き締めます。

構造の特徴としては、天板・側板など広い面に突き板を用い、脚や枠体など応力が集中する部位に堅実な無垢構造を配する点が挙げられます。突き板の木取りは木目の連続性が丁寧に計画され、天板には絵画的な表情が与えられます。一方でスチールの細い脚部は、断面の見え方が角度で変化するように意図され、静的な塊を軽やかな線へと変換します。これらは視覚効果に留まらず、日常の使用で触れる面・握る部位の厚みや角度が適切に調整されており、作業時の負担を減らす配慮につながっています。

素材と加工においては、ブラジリアンローズウッドの深い色調と劇的な杢を生かすため、突き板の継ぎは素直で、端部は繊細に面取りされています。引き出し内部は滑走性と耐久性を両立する仕上げが施され、頻繁な出し入れでも動きが安定します。スチール脚は木部と対比を成し、緊張感と静けさの均衡を保ちます。こうした異素材の対話は、単なる装飾ではなく、重量感と軽快感のバランスを構造的に成立させるための手段として機能しています。

デザイナーと工房の関係では、クリスチャンセンの明快な機能計画とフェルドバレ・モブラーの丁寧な木工・仕上げが密接に結びついています。工房は収納家具とデスクワークの領域で強みを持ち、仕様の可変性にも柔軟に対応しました。引き出し配列や背面収納の有無など、用途に応じた調整が行われ、独立設置を前提とした背面仕上げは、空間の中心に置かれるデスクとしての役割を拡張します。こうした協働体制は、当時のデンマークにおけるデザイナーと工房の理想的な分業の在り方を映し出しています。

歴史的背景として、本作が生まれた時期は、家庭とオフィスの境界が緩やかに交差し始め、家具が空間の構成要素としてより開放的に振る舞うことが求められた時代でした。独立型の計画、背面の収納と意匠、そして視覚的に軽い脚部は、そうした要請に応える具体的な回答です。座る人の動作や視線を阻害しない“浮遊する”天板は、見た目の軽やかさと使い心地の良さを結び付け、日々の作業に自然と集中をもたらします。結果として、手触りの滑らかな木肌と明快な操作性は、時間をかけて体になじみ、多様な空間での活用が期待されます。曲線と直線の取り合わせは人間工学的配慮によって実現され、機能と美が無理なく同居する設計思想が一貫して感じられます。

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