About
Designer: Poul Kjærholm(ポール・ケアホルム)
Manufacturer: E. Kold Christensen(E. コールド・クリステンセン) / Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1965
Material: Stainless steel, cane (rattan), leather
Size: W67 × D155 × H85 cm / SH14 cm
Story
ポール・ケアホルムが1965年に発表した「PK24 シェーズロング」は、彼のデザイン哲学を最も純粋に体現した作品です。伝統的に木材を重視してきたデンマーク家具の流れに対し、ケアホルムはスチールを芸術的価値を持つ素材として再定義し、工業とクラフトの境界を超えた独自の美学を築き上げました。その代表例が、浮遊感と静謐さを宿すこの椅子です。
PK24は、17世紀フランスで誕生したシェーズロングの歴史を踏まえつつ、ル・コルビュジエの「LC4」とも対比される存在です。しかし、ケアホルムはシートをフレームに固定せず、重力と摩擦だけで支えるという革新的な構造を採用しました。この大胆な発想によって、使用者の体重移動で自然に角度が変化し、まるでハンモックに身を委ねるような浮遊感が生まれます。
素材の組み合わせも、ケアホルムならではの詩的な対話を体現しています。サテン仕上げのステンレススチールは光を柔らかく反射し、籐や革といった自然素材と調和します。さらに、レザー製ヘッドレストとスチール製カウンターウェイトが付属し、実用性と快適性を両立しています。構造美と快適性の統合は、彼が自らを「家具建築家」と呼んだ思想の結晶といえるでしょう。
製造史もPK24の価値を深めています。初期はE. Kold Christensen社がケアホルムと生涯にわたる協業関係の中で製造を担い、その後1982年にフリッツ・ハンセン社が権利を継承しました。こうして現在に至るまでPK24は連綿と生産され続けています。
PK24はニューヨーク近代美術館(MoMA)にも収蔵され、単なる家具を超えた芸術的・歴史的価値を持つことが証明されています。重力と素材を活かした独自の構造は、空間に静けさと緊張感をもたらし、時代を超えて評価され続けています。