About
Designer: Poul Kjærholm(ポール・ケアホルム)
Manufacturer: E. Kold Christensen(E. コールド・クリステンセン) / Fritz Hansen(フリッツ・ハンセン)
Year: 1960
Material: Stainless steel, fiberglass, leather
Size: W580 × D580 × H770, SH430
Story
PK9「チューリップチェア」は、ポール・ケアホルムが1960年に発表した作品で、彼のデザイン哲学を象徴する存在です。椅子のフォルムは、妻ハンナが砂浜に腰を下ろした跡に着想を得たとされ、愛情と自然の美が設計の出発点となりました。ケアホルムは粘土や石膏を用いた実験を繰り返し、人体に最も適した座り心地を追求しました。
この椅子の特徴は、通常の4本脚ではなく3本脚を採用した点にあります。サテン仕上げのステンレススチールが描く3本の脚は、軽やかで優雅な印象を与えるだけでなく、着座時に適度な「しなり」を生み出します。構造上の安定性を備えながらも、花びらのように広がる造形はまさにチューリップを思わせ、彫刻的な美を備えています。
座面にはグラスファイバー製のシェルを用い、その上にフルパディングを施したレザーを張り込んでいます。冷たい印象を持つスチールと、柔らかく温かみのある革という異なる素材の組み合わせは、ケアホルムの「素材の対話」という哲学を体現しています。長く使用することで革には独自の経年変化が生まれ、使う人と共に椅子が時間を刻んでいきます。
PK9は当初、E. コールド・クリステンセン社によって製造され、その後1982年以降はフリッツ・ハンセン社が生産を引き継ぎました。現行品は多様なレザーオプションを備え、現代の空間にも自然に調和します。
ケアホルムが自らを「家具建築家」と称したように、この椅子は単なる家具にとどまらず、空間に静謐さと詩的な雰囲気をもたらす存在です。PK9は工業的な合理性と職人的な精緻さが融合したタイムレスな名作として、今日もなお高い評価を受けています。