ミニマルチェア JH-701・PP-701 徹底比較 | ヴィンテージ品と現行品の違い

ハンス・J・ウェグナーがデザインしたミニマルチェア:JH-710

「ミニマルチェア」という呼び名は、JH701とPP701が持つ、無駄を省いたシンプルで美しいデザインをよく表しています。これらの椅子は、ハンス・J・ウェグナーが自宅用にデザインしたもので、彼の美意識と実用性への強いこだわりが込められています。自分たちの暮らしのためにデザインされたという背景は、この椅子が大量生産のための製品ではなく、日々の生活の中で本当に快適に使える道具として、ウェグナーが理想を追求した結果であることを物語っています。ウェグナーの家具が「ただのデザイン家具」ではなく、「暮らしに根ざした道具」として支持され続けている理由も、ここにあります。特にJH701は、彼の代表作のひとつである「JH518 ブルチェア」を、より簡素に、よりモダンにアレンジして生まれたチェアです。その意味でも、まさにウェグナー流ミニマルデザインの真髄といえるでしょう。

  


JH701:Johannes Hansen工房の遺産(1965年ー1990年)

JH701は1965年にハンス・J・ウェグナーが自邸のためにデザインし、Johannes Hansen(ヨハネス・ハンセン)工房によって製造されました。両者の密接な協働関係が反映され、シンプルで洗練されたフォルムと高い職人技が特徴です。構造はスチールフレームに木製の座面と笠木を組み合わせたもので、軽快かつ端正な印象を与えます。特に笠木は4つの無垢材を中央の十字型の「契(ちぎり)」で接合する独自の構造を持ち、ヨハネスハンセン製のものは契りにローズウッドなど希少材が使われました。ウェグナーはこの契を意匠として強調し、構造美をデザインに昇華させました。現行モデルであるPP701よりも笠木の中心幅が狭く、フォルムはよりシャープです。その完成度の高さと希少性から、JH701はヴィンテージ市場で非常に高く評価されています。

  


PP701:PP Møblerによる継承と進化(1990年ー現在)

PP701は、JH701(ヨハネス・ハンセン工房製)の製造終了後、そのデザインを引き継ぐ形でPP Møbler(PPモブラー)が1965年から本格生産を開始したミニマルチェアです。笠木の中央には十字型の「ちぎり」があり、ウェンジやメープルによる素材アクセントが施されています 。半分の長さに設計されたアームは、テーブル下への収まりと安定した肘置きの両立を可能にし、実用性を重視した意匠です。座面裏はペーパーコードで留め具を隠し、工具なしで張替えできる構造になっており、メンテナンス性にも優れています。木材はオーク・アッシュ・チェリー・ウォルナットなどから選べ、張地もレザーやファブリックに対応しているため、空間や用途に応じたカスタマイズが可能です 。JH701と比べて背もたれの中心幅が広く、全体的に柔らかなフォルムになっており、現代人の体格に合わせ、シートハイ(座面高)もやや高めに設定されています。

 


JH701とPP701の違い | Johannes Hansen製とPP Møbler製との違いと見分け方

ハンス・J・ウェグナーがデザインした「ミニマルチェア」であるJH701とPP701は、その共通のルーツを持ちながらも、製造元の違いにより様々な点で明確な差異が見られます。以下にその主要な点を比較します。

 

オリジナル性と復刻

Johannes Hansen | ヨハネス・ハンセンによって1965年に生産が開始され、現在は生産終了しています 。特にマホガニー材の入手困難化が生産終了の一因とされています。ヨハネス・ハンセンのお品はプレートまたはラベルがついていますが、剥がれてしまっている場合も多いです。  

PP Møbler | PPモブラーによって1990年から現在に至るまで継続して生産されています 。PPモブラーはウェグナーとの長年の信頼関係に基づき、そのデザイン哲学を継承しています。PPモブラーのお品は焼き印、またはプレートがついています。

    

サイズ・ディテール・素材

Johannes Hansen | 両チェアの最も特徴的な違いの一つが、背もたれ上部の笠木のフォルムです。ヨハネスハンセンの笠木はアームから背板にかけてのラインがよりシャープで、全体的にすっきりとした印象を与えます 。笠木の中心部がPP701と比較して約50mm小さく 、ヴィンテージ品では背もたれが太いのが特徴とされます。また笠木の十字型の「契(ちぎり)」は両チェアに共通する意匠ですが、使用される木材に違いが見られます。ヨハネスブルクはチーク、マホガニー 、オーク、メープル 、バーチ、ウェンゲ など、多様な木材が使用されました。特にヴィンテージのJH701では、この「契」に希少なローズウッド材が使われていることがあり 、その希少性が価値を高めています。またヨハネスハンセン製のシートハイは43㎝と低めに作られています。 

PP Møbler | PPモブラー製の笠木はJH701と比較して、アームから背板にかけてのラインがより丸みを帯びており、柔らかな印象を与えます 。笠木の中心部がJH701より約50mm大きく 、これは現行品におけるデザインの微調整の結果と考えられます。 またPPモブラーでは、オーク、メープル、アッシュ、チェリー、ウォルナットなど、豊富な種類の木材から選択可能です。マホガ二ー材やチーク材の木材も選択可能な時期がありました。笠木のジョイント部には、木部の種類に応じてローズウッドやメープルが使用されるか、ジョイントなしのバリエーションも存在します。 PPモブラー製のシートハイは45㎝と現代人の体格に合わせて、微妙に変更を加えています。(43㎝でもオーダー可能です。)

 

価格と市場価値

Johannes Hansen | 400,000円~600,000円 2025年6月現在
現在は生産が終了しているため、ヴィンテージ市場でのみ入手可能です。ヨハネス・ハンセン製オリジナルは非常に希少価値が高く、プレートの有無やコンディション、樹種によって価格は大きく変動します。

PP Møbler | 408,100円~556,600円(税込)2025年6月現在
PPモブラーによって現行品として生産・販売されており、新品での購入が可能です。樹種やレザーの種類によって価格が異なります。 

 


ウェグナーデザインの不朽の魅力と継承

 

  

ハンス・J・ウェグナーが自身の邸宅のためにデザインしたJH701とPP701は、デンマークモダンデザインの象徴的な存在です。両チェアは、ウェグナーの機能性と美学への深いこだわり、そして素材への敬意を体現しています。

JH701は、ヨハネス・ハンセン工房との密接な協働から生まれた、初期の純粋な表現であり、そのすっきりとしたフォルムと希少な素材の使用は、ヴィンテージ市場で高い評価を得ています。笠木の「契」に見られるローズウッド材のような細部は、当時の職人技とウェグナーの木材活用哲学の結晶であり、現代では再現が難しい独特の価値を放っています。

一方、PP701は、PPモブラーによるウェグナーデザインの「継承」と「進化」の証です。笠木のフォルムの微調整、豊富な素材選択肢、そして軽量化とスタッキング機能の強化は、現代のライフスタイルや空間のニーズに応えるための適応を示しています。特に「半分の長さのアーム」や座面裏の仕上げに見られる細やかな配慮は、ウェグナーが追求した人間工学と実用性の深さを物語っています。

これらの差異は、どちらか一方が優れているという単純な比較ではなく、デザインが異なる製造環境や時代の要請の中でどのように解釈され、発展していくかという、デザインの生きたプロセスを示しています。JH701が過去の貴重な遺産であるとすれば、PP701はウェグナーの哲学が現代に息づき、進化し続ける姿を映し出しています。

JH701とPP701は、ハンス・J・ウェグナーという一人のデザイナーの不朽の才能と、デンマークの優れた職人技、そしてデザインを未来へと繋ぐ製造者の情熱が結びついた結果として、それぞれの時代において独自の輝きを放ち続けています。

 

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