Story
Kolds Savværk(コールド・サウヴァーク/製材所)の物語は、単なる家具製造の歴史にとどまらず、一族の起業家精神と垂直統合された産業構造、そしてデンマーク・モダンの黄金時代を象徴するデザインの革新が交差する壮大な物語です。
起源は1888年の木材取引に遡り、1914年にマーティン・コールドがケルテミンデにサウヴァークを設立したことで本格的な歩みを始めました。この拠点は海上輸送に適した港町にあり、良質な木材の安定供給を可能にした戦略的な拠点でした。やがてこのサウヴァークは、デンマーク最大級の広葉樹供給拠点に成長し、家具生産の基盤を形成していきました。
1940年代にはガーデンファニチャーの製造に着手し、家具産業への第一歩を踏み出しました。1950年代には、三兄弟による分業体制が確立されます。ハンス・ピーター・コールドは木材供給を担い、モーエンス・コールドは独立した家具工房を経営し、そしてポール・コールドは家具部門を率いてデザイン主導の事業展開を推進しました。この垂直統合の仕組みは、原材料の調達から製品化までを一貫して行うことを可能にし、品質と競争力を高めました。
中でも特筆すべきは、ポール・コールドとナナ&ヨルゲン・ディッツェル夫妻との協業です。1954年から1960年代初頭にかけて展開されたこのパートナーシップは、工房の黄金期を築きました。リングチェア(Model 114)やND54ハイチェアなど、人間中心のデザインと実験的な造形が融合した名作が誕生し、その多くは今日に至るまで高く評価されています。
ディッツェル夫妻のデザインは、伝統的な職人技と工業的な生産技術の融合を体現しました。工業的な手法は単なる効率化ではなく、新たなフォルムや構造を実現するための触媒となり、クラフトとインダストリーの橋渡しを果たしました。これはデンマーク・モダンにおけるKolds Savværkの独自の位置づけを決定づけています。
ヨルゲンの死後もナナ・ディッツェルによる創作は続き、「トリッサー」シリーズやコートスタンドといった作品が生まれました。1980年代に事業は幕を閉じましたが、その遺産は現代にも受け継がれています。ND54ハイチェアは現在カール・ハンセン&サンによって、リングチェアはゲタマによって復刻され、サウヴァークの名はデンマーク・モダンの象徴として息づいています。
About
Year: 1888–1984
President: Martin Kold、Hans Peter Kold、Poul Kold、Mogens Kold
Designer: Nanna Ditzel(ナナ・ディッツェル)、Jørgen Ditzel(ヨルゲン・ディッツェル)、Kurt Østervig(クルト・オスタヴィー)、Arne Hovmand-Olsen(アルネ・ホフマンド=オルセン)
Place: ケルテミンデ
History
1888: コールド家が木材取引業を開始
1914: マーティン・コールドがケルテミンデにサウヴァークを設立
1940年代: ガーデンファニチャーの製造を開始し家具市場へ進出
1950年代: 三兄弟による分業体制確立(木材供給・家具製造・独立工房)
1954: ポール・コールドがナナ&ヨルゲン・ディッツェル夫妻と協業開始
1955: ND54ハイチェアを発表、デンマーク文化正典に選定される
1958: リングチェア(Model 114)を発表、工房の代表作となる
1961: ヨルゲン・ディッツェル死去、以降はナナ・ディッツェルが協業を継続
1962: 「トリッサー」シリーズを発表、子供用モジュール家具として注目
1963: コートスタンド(ND1)を発表、彫刻的デザインが評価される
1970年代: ライナー・ダウミラーら新世代デザイナーとの協業を展開
1984: 公的記録により「Kolds Savværk A/S」の活動終息が確認される
1990年代: 工房跡地が高級住宅地として再開発
2000年代以降: ND54ハイチェアはカール・ハンセン&サン、リングチェアはゲタマが復刻生産
Furniture
・Ring Chair Model 114 | リングチェア
・High Chair ND54 Model 115 | ハイチェア
・Trisser Series ND102 | トリッサーシリーズ
・Dining Chair Model 111
・Armchair Model 113
・Dining Chair Model 110
・Badminton Chair ND150 | バドミントンチェア
・Coffee Table Model 148
・Desk Model 135
・Coat Stand ND1
・Walking Stick Model 1958