Story
アントン・キルデベルグは、デンマーク・モダン運動において特異な位置を占める家具職人であり、デザイナーであり、そして工房経営者でもありました。アルネ・ヤコブセンやハンス・J・ウェグナーのような「スター・デザイナー」とは異なり、彼は静かな卓越性によってこの運動を支え、基盤を形成する役割を果たしました。
彼の名は「個人」としての職人、また「Anton Kildebergs Møbelfabrik」という生産主体、さらにデザイナーとしての顔を持ち、多層的なアイデンティティを帯びています。この統合的な活動は、デンマーク家具産業の協力的で流動的な仕組みを象徴しています。
工房は1940年代から1970年代にかけて活動し、チークやマホガニーなど高品質の木材を扱ったテーブルやキャビネットを製造しました。特に「バイオモルフィック・コーヒーテーブル」や「モデル210 サイドテーブル」は象徴的な作品であり、流れるような有機的フォルムと精緻なディテールは、生活空間に彫刻的な美を与えました。
また、フィン・ユールの複雑なコーヒーテーブルを製造したことは、工房の高度な技術力を示す重要な事実です。同時に、FK MøblerやOdense Møbelfabrikへデザインを提供するなど、デザイナーとしての側面も発揮しました。こうした柔軟な役割分担は、工房が単なる製造拠点ではなく、デザインと技巧を結ぶ「協力のハブ」であったことを物語ります。
キルデベルグの美学は、奇抜さではなく「素材への誠実さ」と「洗練された実用性」を重視するものでした。彼の家具は、フリッツ・ヘニングセンの伝統を継承しつつも、ミッドセンチュリー期の生活様式に寄り添う進化型モダニズムを体現しています。その「静かなる卓越性」は、今日でもヴィンテージ家具市場において高く評価され、デンマークデザインの真の力を理解するために不可欠な存在であり続けています。
About
Year: 1940s–1970s
President: Anton Kildeberg
Designer: Anton Kildeberg
Place: Odense(オーデンセ)
History
1940s: アントン・キルデベルグ、オーデンセを拠点に家具工房を設立
1940s: 腎臓形(キドニーシェイプ)のコーヒーテーブルを製作開始
1950s: モデル210 サイドテーブルを発表、汎用性の高さから広く流通
1950s: ケイン(籐)を取り入れたサイドテーブルやバーカートを製作
1950s: フィン・ユールのドロップリーフ・コーヒーテーブルの製造を担当
1960s: バイオモルフィック・コーヒーテーブルを製作、代表作として高評価
1960s: 真鍮ディテールを取り入れたコーヒーテーブルを展開
1960s: FK Møblerのためにモデル210のデザインを提供
1960s: Odense Møbelfabrik向けにモデル186 コーヒーテーブルをデザイン
1960s: 外部デザイナー(カイ・オーエ・ラウリッツェン・ヴァン、エリック・オスターマン)を起用しモデル204・214・215を製作
1960s: チークとローズウッドを用いた矩形コーヒーテーブルを発表
1960s: メーカー刻印(円内に「A」を配したロゴ)を使用開始
1970s: モデル210 サイドテーブルの製造を継続、素材のバリエーションを拡大
1970s: 工房活動を終息へ
Furniture
・Biomorphic Coffee Table | バイオモルフィック・コーヒーテーブル
・Kidney-shaped Coffee Table | キドニーシェイプ・コーヒーテーブル
・Model 210 Side Table
・Rectangular Coffee Table
・Tripod Side Table
・Teak & Cane Side Table
・Bar Cart / Tea Trolley
・Nutwood Cabinet
・Bookcase with teak and oak
・Mahogany Candle Stand