Story
K. Thomsen工房は、1930年頃に設立され、1960年代末まで活動したデンマークの家具工房です。デンマーク・モダンの黄金時代において、著名なデザイナーのビジョンを物質的に具現化する「スネーカーメスター(マスターキャビネットメーカー)」として高く評価されました。彼らは単なる製造者ではなく、デザインの実現における重要な編集者であり、作品を通じて時代の精神を形にした存在でした。
特に有名なのは、モーエンス・ラッセンと協業したML42スツールです。1942年のコペンハーゲン家具職人ギルド展で発表されたこのスツールは、靴職人のスツールを起源とする3本脚の構造と彫刻的な座面を特徴とし、今日に至るまでデンマーク・モダンの象徴として語り継がれています。ニューヨーク近代美術館(MoMA)に収蔵されたことで、その重要性は国際的に確立されました。
K. Thomsen工房は、イーゴン・ブロ・ペーターセン、フレデリク・クリスチャン・ルンド、ピーター・ヴィッツらとも協業し、サイドボードやチェスト、壁掛けデスクなど、多様な作品を製作しました。いずれもチークやオーク、ローズウッドなどの高級材を用い、精緻な木工技術を駆使して仕上げられています。これらの作品は、工房が幅広いデザイナーの要求に応えられる柔軟性と高い技術水準を持っていたことを示しています。
また、K. Thomsen工房の作品には紙ラベルが用いられていました。焼印や金属タグと比べて脆弱なため現存数は少ないものの、このラベルは真正性を示す重要な証拠であり、コレクター市場での価値を大きく左右する要素となっています。ラベル付きのオリジナル品は、希少性と歴史的価値の両面から高く評価されています。
K. Thomsen工房の遺産は、単にモノとしての家具にとどまらず、デンマーク・モダン運動の基盤を支えた職人たちの存在意義を象徴しています。その名はデザイナーほど知られていないものの、その作品に宿る技巧と精神は今なお雄弁に語り継がれています。
About
Year: 1930頃 – 1960年代末
President: K. Thomsen
Designer: Mogens Lassen(モーエンス・ラッセン)、Egon Bro Petersen(イーゴン・ブロ・ペーターセン)、Frederik Christian Lund(フレデリク・クリスチャン・ルンド)、Peter Hvidt(ピーター・ヴィッツ)ほか
Place: Copenhagen(コペンハーゲン)
History
1930: K. Thomsen工房設立
1936: フレデリク・クリスチャン・ルンドのサイドボードを製作、キューバンマホガニーとアッシュ材を使用
1941: イーゴン・ブロ・ペーターセンのチェスト・オブ・ドロワーズを製作、コペンハーゲン家具職人ギルド展に出品
1942: モーエンス・ラッセンのML42スツールを製作、ギルド展で発表
1943: ペーターセンの壁掛けミラーを製作
1945: ペーターセンの壁掛けデスクを製作、蛇腹扉を採用
1950: ピーター・ヴィッツと協業、家具展に出品
1952: デンマーク家具輸出ブームに伴い製品が国外市場へ流通開始
1955: 高級素材を用いたリビング用キャビネットシリーズを発表
1957: Illums Bolighusなど大手小売店で取り扱われる
1960: フロード・ホルムのローズウッド製ミラーを製作
1962: ハンス・Chr・ハンセンやフォルケ・ポールソンらと協業記録あり
1964: 複数のギルド展に参加し、デンマーク国内で高評価を得る
1965: 海外のデザイン誌に作品が掲載され、国際的評価を確立
1966: ギルド展終了、活動の一つの節目を迎える
1967: イーゴン・ブロ・ペーターセンの新作家具を少数製作
1968: 生産量が減少し、活動規模を縮小
1969: 工房活動を終了、約40年の歴史に幕を閉じる
Furniture
・ML42 Stool | スツール
・Sideboard
・Chest of Drawers
・Wall-mounted Desk
・Mirror
・Cabinet