Kay Bojesen | カイ・ボイスン


Story

カイ・ボイスン(1886–1958)は、機能主義の合理性に、人間的な温かさとユーモアを融合させたデザイナーです。銀細工師として培った精緻な造形感覚と、木という素材への愛情を背景に、日用品から玩具まで一貫して「微笑む線」を追求しました。彼の作品は、単に役に立つだけでなく、触れたときの心地よさや使う喜びまで設計に織り込まれている点が特長です。

初期にはアール・ヌーヴォーの影響下で有機的なフォルムを探究しましたが、やがて機能主義へと転じ、装飾性を削ぎ落とした純度の高い形態へ到達しました。その過程で、素材は銀からステンレススチール、さらに木材へと変遷し、思想の深化とともに表現手段も変わっていきました。素材の選択は常に理念の翻訳であり、生活者に開かれたデザインという信念の実践でした。

1919年の息子の誕生は転機となり、子どもの世界や遊びの体験を中心に据えたデザインが始まります。コートフックの課題から生まれた「モンキー」に象徴されるように、彼は機能を起点としながら、使い手の想像力を引き出す物語性を備えたオブジェを生み出しました。形は簡潔でありながら、触感と関節の可動性によって、無限の表情と振る舞いが引き出されます。

ボイスンは、コペンハーゲンに自らの工房兼店舗を構え、同時に先進的な展示販売拠点づくりにも関与しました。デンマークの工芸と産業を結び、良質なデザインを社会へ広げる枠組みを整えた点でも重要です。彼の実践は、作り手・売り手・使い手の関係を再構築し、デザインを生活に根づかせました。

晩年に至るまで貫かれた信念は、誰もが享受できる優れた日用品をつくることでした。グランプリ・カトラリーのような実用品から、木製動物のような愛らしいオブジェまで、彼の作品は世代を超えて使われ続けています。今日においても、その精神は確かな品質と持続可能な素材選択によって継承されており、デザインが人を笑顔にする力を示し続けています。


About

Year: 1886–1958
Place: Copenhagen(コペンハーゲン)
Manufacturer: Kay Bojesen(カイ・ボイスン)


History

1886:コペンハーゲンに生まれる。
1906:銀細工師として修行を開始し、精緻な金工技術を身につける。
1910:銀細工師として独り立ちし、独自の作品制作を始める。
1914:第一次世界大戦期の資材事情の中で実用と耐久性への関心を高める。
1919:息子の誕生を契機に、子どものための玩具と木材への関心が強まる。
1920:展示販売の新しい枠組みづくりに関与し、同時代の工芸運動を牽引する。
1925:日用品デザインの比重を高め、装飾を抑えた機能主義的造形を志向する。
1930:木工玩具の試作を始め、ウマなど初期作で素材の可能性を探る。
1932:コペンハーゲンに工房兼店舗を開設し、制作と販売の基盤を整える。
1934:ダックスフンド「ピンド」を制作し、キャラクター性と手触りの心地よさを両立させる。
1935:シマウマを発表し、単純化した幾何形体で動物の本質をとらえる手法を確立する。
1936:木馬を制作し、玩具と家具の境界を横断するアプローチを提示する。
1938:後年「グランプリ」と呼ばれるカトラリーデザインをまとめ、実用最優先の形態を整える。
1942:木製の近衛兵を制作し、記号性と遊びの動作を結びつける。
1951:モンキーを発表し、可動関節による多様な姿勢表現を実現する。
1951:カトラリーが国際展で高評価を得て、日用品デザインの到達点を示す。
1952:王室御用達として認められ、国民的デザインとしての地位を固める。
1952:クマを発表し、親しみやすいプロポーションで触覚的魅力を強化する。
1953:ゾウを制作し、最小限の丸みで量感と安定感を表現する。
1954:パフィンを制作し、色面と形態の釣り合いを探る。
1955:カバを制作し、留め具的機能も兼ねた可動部の設計を洗練する。
1956:ソングバードの原型を整理し、色の命名に個人的記憶を重ねる。
1957:木工玩具の体系化を進め、サイズバリエーションの考え方を定着させる。
1958:逝去。作品は家族と関係者により保存・継承される。
1980年代:復刻の準備が進み、設計原図や写真資料の整理が行われる。
1990年代:木製動物の再生産が本格化し、国際的な人気が再燃する。
2000年代:品質基準と素材調達を見直し、持続可能性の観点を組み込む。
2010年代:カトラリーの形状が原典に忠実となるよう調整され、生産体制が強化される。
現在:FSC認証材などを用い、理念と品質を両立した継続的生産が行われている。


Furniture

・Monkey | モンキー
・Elephant | ゾウ
・Bear | クマ
・Hippo | カバ
・Puffin | パフィン(ツノメドリ)
・Zebra | シマウマ
・Dachshund Pind | ダックスフンド ピンド
・Rocking Horse | 木馬
・Royal Guards Drum Major | 近衛兵 ドラムメジャー
・Royal Guards Standard Bearer | 近衛兵 旗手
・Songbird Kay | ソングバード カイ
・Songbird Ernst | ソングバード エルンスト
・Songbird Ruth | ソングバード ルット
・Songbird Alfred | ソングバード アルフレッド
・Lovebirds | ラブバード
・Rabbit | ウサギ
・Sparrow | スズメ
・Wooden Car | 木製自動車
・Wooden Airplane | 木製飛行機
・Alphabet Blocks | アルファベットブロック
・Rattle | ガラガラ
・Children’s Bowl | 子ども用ボウル
・Children’s Plate | 子ども用プレート
・Grand Prix Cutlery | グランプリ カトラリー

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