Anton Kildeberg | アントン・キルデベリ


Story

アントン・キルデベリは、デンマーク・モダンデザインの黄金期を支えた重要な存在でありながら、長らく巨匠たちの陰に隠れてきたデザイナー兼家具職人です。彼は単なるデザイナーとしてではなく、自身の工房を持ち、他のデザイナーの作品を製造する製造者としても活動しました。さらに、フィン・ユールのような巨匠の高度なデザインを具体化できる稀有な技術を備えていたことから、デンマーク・モダンにおける「マスター・クラフツマン」として評価されています。

その活動は、1927年から1967年にかけて開催されたコペンハーゲン家具職人ギルド展の文脈の中で理解されます。この展覧会を中心とした職人とデザイナーの協業は、彼の多面的なキャリアに大きな影響を与えました。クラフトマンシップを重視しながらも産業化と結びついたデンマークの潮流の中で、キルデベリは独自の有機的デザイン言語を確立しました。

彼の工房「Anton Kildebergs Møbelfabrik」では、自身のデザイン作品のみならず、カイ・オーゲ・ラウリッツェン・ヴァンやエリック・オスターマンといったデザイナーの作品も製造されました。さらに、フィン・ユール作品を製造した事実は、彼の工房の技術力がデンマーク最高水準に位置していたことを示しています。

スタイル面では、曲線を基調とする有機的なフォルムと素材への誠実さが特徴です。チークやウォールナットを駆使し、真鍮や籐をアクセントに取り入れることで、当時の潮流の中でも独自の個性を放ちました。フリッツ・ヘニングセンのクラフト第一主義の影響を色濃く受けつつも、キルデベリはそれをミッドセンチュリーの美学に昇華させました。

今日、彼の作品は国際的なオークションやギャラリーにおいて再評価が進んでおり、デンマーク・モダンの「知られざる名匠」として注目を集めています。彼の作品を追うことは、デンマーク・モダンというムーブメントの基盤を理解するための重要な手がかりとなります。


About

Year: 1920s–1970s
Place: Copenhagen(コペンハーゲン)
Manufacturer: Anton Kildebergs Møbelfabrik(アントン・キルデベリ工房)
Designer: Anton Kildeberg(アントン・キルデベリ)


History

1950年代: 自身の工房「Anton Kildebergs Møbelfabrik」を設立し、家具製造を開始。
1954年: 広告に工房名が掲載され、デンマーク家具市場で活動が確認される。
1950年代後半: バイオモルフィックなコーヒーテーブルなど、自身の有機的なデザインを発表。
1960年代: カイ・オーゲ・ラウリッツェン・ヴァンやエリック・オスターマンのデザインを製造。
1960年代: フィン・ユールのコーヒーテーブルを製造し、最高水準の技術力を証明。
1968年: Odense Møbelfabrikのためにモデル186コーヒーテーブルを製造。
1970年代: 工房が最も活発な時期を迎え、多様なデザインを展開。
以降: 工房の活動は徐々に縮小し、やがて閉鎖に至る。
21世紀: ヴィンテージ市場で再評価が進み、国際的な需要が拡大。


Furniture

・Biomorphic Coffee Table | バイオモルフィック・コーヒーテーブル
・Model 210 Side Table | サイドテーブル
・Model 186 Coffee Table | コーヒーテーブル
・Side Table with Cane Shelf | 籐棚付きサイドテーブル
・Round Dining Table | ダイニングテーブル
・Long Coffee Table with Pull-out Tray | 引き出し式トレイ付きコーヒーテーブル
・Various Coffee Tables | コーヒーテーブル各種

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