Story
Tarm Stole & Møbelfabrikは、1896年にMads Henriksenによって創設された工房であり、デンマーク家具史のなかで重要な役割を果たしました。創業者Henriksenはアメリカでの経験を経て帰国し、地方都市タームにおいて椅子工場を立ち上げました。彼が早期から産業的な規模での生産を視野に入れていたことは、後にFDB(デンマーク生活協同組合連合会)との提携につながり、工房の飛躍の基盤を築きました。
1947年にFDBに買収されると、工房は「FDB Møbelfabrik」として再編され、ボーエ・モーエンセンの指揮のもと、デザインの民主化を担う重要な生産拠点となりました。シンプルで機能的、かつ一般市民が手に入れやすい価格帯の家具を大量に製造し、J52BやJ28といったモデルはデンマーク家庭に広く普及しました。その膨大な生産能力は、モーエンセンの理念を現実にするエンジンとして機能しました。
FDBとの協業と並行して、ターム工房はハンス・J・ウェグナーやエリック・オーレ・ヨルゲンセンといった巨匠たちとも独自の協力関係を築きました。特にヨルゲンセンのウィンザー様式チェアは、ブッチャーブロック技法や曲げ木の技術を駆使した高度な職人技術を示すものであり、工房が量産と工芸の両面を兼ね備えていたことを証明しています。
1980年代に入ると、工房はグローバル化の波を受け、Kvist Industriesの傘下に入り、IKEA向けの生産を担うようになります。これは「デザインクラシック」を生み出す立場から、世界的サプライチェーンの一端を担う存在への転換を意味しました。2010年の閉鎖と2018年の建物解体を経て物理的な役割を終えましたが、2017年以降、地元市民団体によって「Furniture Station」という博物館として再生され、その遺産は保存されています。
Tarm Stole & Møbelfabrikの歴史は、デンマーク家具産業の歩みそのものを縮図のように映し出しています。地方の工房から国民的デザインプロジェクトの中核へ、そしてグローバル市場への適応と閉鎖、最後に文化的遺産としての保存。この工房の物語は、デンマーク・モダンの変遷を理解するうえで不可欠な事例となっています。
About
Year:1896-2010
President:Mads Henriksen、FDB、Arne Kvist
Designer:Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)、Hans J. Wegner(ハンス・ウェグナー)、Erik Ole Jørgensen(エリック・オーレ・ヨルゲンセン)
Place:Tarm(ターム)
History
1896: Mads HenriksenがTarmで椅子工場を設立。
1904: 工場火災により隣接工場と分離するも、蒸気機関を共有。
1920: 創業者と従業員の集合写真が残され、安定した事業基盤が示される。
1947: FDBが工場を買収し「FDB Møbelfabrik」として再編。
1950: Børge MogensenデザインのJ52Bダイニングチェアを生産開始。
1953: J28アームチェアを製造、デンマーク国内で広く普及。
1960: 年間最大1万脚を製造可能な生産能力を誇る。
1965: Hans J. Wegnerデザインとされるロッキングチェアを製造(帰属は議論あり)。
1967: FDBデザインスタジオ閉鎖、工房の役割が変化。
1970: Erik Ole Jørgensenデザインのウィンザーチェアを製造開始。
1980: FDBが工場とデザイン権利を売却。
1989: Arne Kvistが工場を買収、Kvist Industriesの傘下に入る。
1990: IKEA向けの生産を本格化、フラットパック家具の供給を担う。
2000: 地域における雇用の中心として存続。
2010: 工場閉鎖、114年の歴史に幕を下ろす。
2018: 工場建物が解体される。
2017: 地元市民グループが「Furniture Station」保存プロジェクトを開始。
2025: Furniture Stationが正式開館、博物館として遺産を継承。
Furniture
・J52B Dining Chair
・J28 Armchair
・Windsor Dining Chair
・Windsor Armchair
・Rocking Chair(CH45 attribution debated)