Story
Wørts(ヴェルツ)は、20世紀デンマーク家具の黄金時代において、伝統的な職人技と新しいデザイン理念を結び付けた重要な存在でした。創業者Henrik Wørtsが築いた工房は、チークやローズウッドといった高級木材を惜しみなく使用し、緻密な接合や仕上げに徹底的な配慮を行うことで、クラフトマンシップの粋を体現しました。その家具は、チェストやテーブル、椅子など幅広い分野に及び、すべてにおいて「丹念な手仕事」を基盤とするデンマークモダンの美学が貫かれていました。
伝統を受け継いだ息子Erik Wørtsは、1937年にデンマーク工芸学校を卒業後、父の工房で家具をデザインし、やがてコペンハーゲン家具職人ギルド展に作品を出展するなど、次世代を担う才能として注目を集めました。彼が1957年に発表した「モデルW26」チェアは、デンマーク家具史に記録される代表作の一つであり、その技術力を広く知らしめました。
一方でErikは、伝統的な工房の枠を超えて工業化の時代に対応する道を選びました。スウェーデンの百貨店NKでノックダウン家具「Triva」を手掛けた経験を礎に、1958年以降はIKEAの主要デザイナーとして活躍し、大衆の生活に届く家具を生み出しました。父Henrikの遺したクラフトの極致と、息子Erikが追求した工業デザインの革新性。この二重の遺産こそが、Wørtsを特異な存在へと押し上げています。
About
Year:1940年代–1956
President:Henrik Wørts、Erik Wørts
Designer:Erik Wørts(エリック・ヴェルツ)、Bernt Petersen(ベント・ペーターセン)
Place:コペンハーゲン
History
1930年代:Henrik Wørtsがコペンハーゲンに拠点を設立
1937年:Erik Wørtsがデンマーク工芸学校を卒業し、家具製作を開始
1944年:Erikがスウェーデンに移住、NK百貨店でノックダウン家具「Triva」シリーズに参加
1953年:マホガニーと籐を組み合わせた椅子を発表
1956年:拠点がHolger Nissenに引き継がれ、Wørts家の直接経営が終了
1957年:Erik Wørtsが「モデルW26」チェアをデザイン、ギルド展に出展
1958年:IKEA創業者イングヴァル・カンプラードの依頼でIKEAとの協働を開始
1960年:IKEA「DANSKE」サイドボードをデザイン
1963年:「KOLDING」「GRÅBO」ソファを発表
1964年:Bernt Petersenがイージーチェアとソファをデザイン
1968年:IKEA「POP 68」コレクションを発表
1970年代:IKEAにて量産家具の設計を継続、数多くの代表作を残す
1990年代:Erik WørtsがIKEAの主要デザイナーとして晩年まで活動
1997年:Erik Wørts死去、デザイン史における二重の遺産が確立
Furniture
・Model W26 Chair
・Dining Chair Mahogany and Wicker
・Sideboard Tambour Door
・Coffee Table Rosewood
・Easy Chair 1964
・Sofa 1964
・Chest of Drawers
・Bedside Cabinet