5370 Trolley | トロリー


About

Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Fredericia Furniture(フレデリシア)
Year: 1963
Material: Oak, melamine-faced board, steel
Size: W 78 × D 52 × H 65 cm


Story

ボーエ・モーエンセンが手掛けた5370トロリーは、家庭の日常動作を建築的に整理するという発想から生まれた作品です。単なる配膳台に留まらず、移動式の小さな作業台、サイドテーブル、収納ユニットとして多用途に機能するよう構想されています。用途の境界を曖昧にすることで、生活の流れに自然に寄り添うことを意図しています。

設計の中心にあるのは、視覚的な明快さと扱いやすさです。フレームと棚板、トレーという役割の異なる要素を明確に分節し、必要最小限の線と面で構成することで、置かれる空間に負担をかけない落ち着いた佇まいを実現しています。移動や出し入れの動作が直感的で、使い手の所作に迷いが生じにくい点も、このモデルの重要な狙いです。

構造は四隅の柱と貫で組む堅牢な木フレームを基礎に、上下二段の棚板を配した単純明快なフレームワークです。棚は縁を立てずフラットな板面とすることで、トレーやボトル、器具の出し入れを円滑にしています。キャスターは回転の抵抗が少ない仕様で、載荷時でもスムーズに移動できます。取り外し可能なトレーは配膳や下げ作業の導線を短くし、調理から提供までの流れを効率化します。

素材はフレームにオーク、棚板にメラミン化粧板という対比が特徴です。オークは構造耐力と端部の強度に優れ、枠組みの剛性を受け持ちます。一方、メラミン化粧板は平滑で拭き取りやすく、液体や食品を扱う面に適しています。素材の役割分担を明確にすることで、扱いやすさと衛生性を両立し、日常使用のストレスを抑えています。接合は見付けがすっきりと見えるように整理され、必要箇所の金具のみを最小限に露出させる設計とすることで、実用品でありながら静かな表情を保っています。

モーエンセンとフレデリシアの関係は、機能と品質を第一に据える価値観の共有に基づいています。工場側は正確な木工精度と仕上げ品質で応え、デザイナーの意図を量産段階まで安定的に落とし込む体制を整えました。5370は、同社が培ってきた堅実なフレームワークの生産技術と、部材の規格化・効率化を志向する製造思想の接点に位置づけられ、住空間の道具としての信頼性を高めています。

生産体制の観点では、戦後のデンマーク家具が工房的生産から工業的生産へと移行する過程に呼応し、部材寸法の標準化やパーツごとの機能分担が意識された設計です。搬入・搬出や梱包効率まで視野に入れた部材の簡潔さは、当時の住環境や物流条件に適合し、家庭内での配置替えや役割変更にも柔軟に対応できる可搬性を生み出しています。

歴史的背景として、1960年代の北欧デザインは暮らしの実際に根ざした機能主義が成熟期を迎え、住宅の作業やもてなしの所作を整理する道具が求められていました。5370トロリーは、台所と食卓、リビングを横断する導線上に置かれる前提で設計され、飲料や軽食の提供、調理補助、片付けまでの一連の行為を軽やかに支える存在として構想されています。

結果として本作は、家具と器具の境界に立つ「小さな建築」のような性格を備えます。過剰な主張を避け、必要なときに必要な機能を静かに提供する姿勢は、モーエンセンの設計信条と一致しています。日々の所作に無理なく寄り添い、空間に馴染み、扱いが容易であること。それらの総体が、5370トロリーの価値を今日まで確かなものにしています。

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