Poet Sofa | ポエトソファ


About

Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォッダー)
Year: 1941
Material: Fabric, Leather, Oak, Walnut
Size: W136 × D80 × H87, SH38 cm


Story

ポエトソファは、フィン・ユールが1941年に自邸のためにデザインし、同年のコペンハーゲン家具職人ギルド展で初めて公開された作品です。彼の家具デザインにおける独自のアプローチを明確に示すものであり、実用家具と芸術作品の境界を越える存在として注目されました。当時のユールは、機能主義的な潮流に対して独自の「有機的造形」を追求しており、このソファはその理念の象徴となっています。

建築を学んだユールは家具職人としての修業経験を持たなかったため、構造面では家具職人ニールス・ヴォッダーの高度な技術に依拠しました。その結果、木部の骨格と張りぐるみの有機的なフォルムが分業によって融合し、彫刻的でありながら座る人を包み込むような優美なソファが誕生しました。曲線は人間の身体に沿うように設計され、冷徹な機能主義の対極として「身体的快適性」と「感覚的満足」を強調した革新的な試みでした。

また、この作品にはシュルレアリスムの影響が色濃く表れています。発表当時、彫刻家シグルヨン・オーラフソンの作品と並置して展示されたことは、ユールが家具を彫刻と同列に扱う芸術的姿勢を示すものでした。家具を単なる生活道具ではなく、感性に訴える造形芸術として提示するという挑戦的なメッセージが込められていたのです。

ポエトソファの呼称は、家具職人ヴォッダーが娘夫妻に贈ったことに由来します。夫である詩人フランク・イェーガーがこのソファに座って思索にふける姿が、漫画「Poeten og Lillemor」に着想を与えたとされ、この逸話によって「ポエト(詩人)」の愛称が定着しました。家具の物語性がその価値を形作った稀有な例であり、このソファが文化的シンボルへと発展した要因でもあります。

戦後の都市住宅の需要に適応するため、幅136cmというコンパクトなサイズは意図的な設計でした。限られた空間に調和しつつ、芸術的存在感を放つソファは、デンマークの住環境に寄り添う実用性を備えています。そして今日では、2001年からハウス・オブ・フィン・ユールによって復刻され、張地や木部の選択肢を拡張しながらもオリジナルの曲線美を忠実に再現しています。

ポエトソファは、フィン・ユールが掲げた「家具は芸術であり、生活を豊かにする存在である」という思想を体現する作品です。80年以上を経た今もなお、デザイン史における重要なマイルストーンとして、そして人々の生活空間に寄り添う芸術品として高く評価され続けています。

 

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