About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォッダー)
Year: 1939
Material: Oak, Walnut, Wool upholstery
Size: Sofa W180 × D85 × H75 cm / Chair W85 × D80 × H75 cm
Story
「エレファントファニチャー」は、フィン・ユールが1939年のコペンハーゲン家具職人ギルド展で発表したソファと2脚の椅子からなる特異なセットです。彼がデザイナーとして活動を始めた初期の作品であり、その彫刻的な造形は、後に続く「ペリカンチェア」や「No.45チェア」といった傑作の原点となりました。
当時のデンマークでは、カイ・クリントが推進した機能主義的で厳格な家具が主流でしたが、ユールはその流れに真っ向から挑戦しました。彼は家具を建築的構造物としてではなく、彫刻作品として捉え、生命感と動きを宿す形態を追求しました。この「エレファントファニチャー」においても、その姿は奇抜と評され、新聞には「風変わりなリビングルーム」と記されるほど物議を醸しました。しかし、その挑発的な造形こそが、ユールが革新者であることを示すものでした。
また、この展示会でデンマーク皇太子夫妻が実際にソファに腰掛けている写真が残されており、当時から社会的注目を集めていたことが分かります。セットはその後、画家モーゲンス・ロレンツェンが購入し、その家族が「象のようだ」と呼んだことから「エレファントファニチャー」という愛称が定着しました。
デザインの特徴は、厚い張り地で全体を覆うことで木材の構造を隠し、有機的なフォルムを全面に押し出している点です。短く力強い脚は「象の脚」と呼ばれる由来となり、重量感を持ちながらも全体に柔らかな曲線が与えられています。当初の張り地はチャコールグレーのウールにブルーとホワイトのストライプが組み合わされ、抽象彫刻のような存在感を一層強調していました。
長らく実物は失われたとされ、文献上では写真でしか知られていませんでしたが、2020年にオークションに出品されたことで再び脚光を浴びました。このとき修復によって当初の張り地が判明し、オリジナルの姿がよみがえりました。最終的に落札価格は403万デンマーククローネに達し、デンマーク家具史上最高額として記録されました。
「エレファントファニチャー」は、単なる家具の枠を超え、デザイン史における「失われた傑作」の再発見として語り継がれています。それはフィン・ユールの挑戦的な精神を象徴する作品であり、デンマーク・モダニズムの歴史を根底から揺さぶった記念碑的な存在です。