About
Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Tage Kristensen & Co.(テーゲ・クリステンセン)
Year: 1951
Material: Oak, Sheepskin, Brass
Size: W 129 × D 50 × H 80 cm / Seat Height 42 cm
Story
モデル4844は、モーエンセンが独立後に追求した「人の生活に奉仕するための構造的明快さ」を、無駄のない設計で具現化した2人掛けの独立型ソファベンチです。堅牢なオーク無垢材のフレームは、縦横の貫で剛性を高め、視覚的にも構造の読み取りやすさを保っています。6本脚という選択は荷重分散を安定させるだけでなく、長手方向のたわみを抑え、公共空間や家庭での長期使用を想定した耐久性を与えています。
張地に用いられたシープスキンは、触感と保温性に優れ、冬季の体感温度を底上げしつつ、繊維の立体感が光を柔らかく散らして温かい表情を生み出します。皮革やウールを多用した同時期のソファに比べ、素材のテクスチャーが強く前面化し、座面と背の厚みを感じさせながらも圧迫感を与えない落ち着いた佇まいを獲得しています。
外周を見せる木部の細い面取り、座・背クッションのボリューム配分、真鍮パーツによる控えめなアクセントなど、細部はあくまで機能から導かれています。これらは装飾ではなく、組み立て・分解・メンテナンス性を踏まえた結果であり、素材の経年変化を前提に「使い続ける」ための設計思想が貫かれています。
デザイン言語としては、背やアームを格子で軽やかに見せた戦後初期のスポークバック型から一歩進み、量塊感と安定感を前に出す構成へと移行しています。一方で、露出フレームのリズムや座面高の人間工学的設定は、師系譜の機能主義を忠実に継承しており、軽快さと安心感の均衡を取ることで居住空間への収まりを良くしています。
製作はテーゲ・クリステンセンが担い、小規模工房の確かな指物技術により、直線基調の骨格と柔らかな張りの対比が高い水準で両立されています。工房規模ゆえの生産数の限度はありますが、結果として個体ごとの木味や繊維の表情が引き立ち、同型ながら一脚ごとに異なる魅力を宿します。モデル4844は、独立期モーエンセンの実験性と生活者志向が交差する節目の作例として、静かでありながら揺るぎない存在感を放つ一脚です。