About
Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: P. Lauritsen & Søn(ピー・ラウリッツェン&サン)
Year: 1957
Material: Oak veneer, solid oak, brass fittings
Size: W 137 × D 50 × H 90 cm
Story
BM 57サイドボードは、ボーエ・モーエンセンが掲げた実用主義と民主的デザインの理念を、収納家具という最も生活に密着した分野で結晶させた作品です。そり型のランナー脚は床から本体を軽やかに持ち上げ、視覚的にも物理的にも圧迫感を抑えます。過剰な装飾を避け、使い手の生活を主役に据えるという思想が、プロポーションの整合性と機能の明快さに通底しています。
前面は2枚の折り畳み式ドアで構成され、開口時に動線を妨げにくい点が特徴です。真鍮金具は控えめな輝きでオークの木理と調和しながら、構造上の役割を果たします。内部は可動棚と引き出しで構成され、用途に応じて柔軟にレイアウトできるモジュール性を備えています。生活用品の寸法を実測し収納体系を設計したモーエンセンらしい合理性が、細部にまで貫かれています。
素材はソリッドオークとオーク突板を主体とし、経年により木部と真鍮に生じる自然な変化が、ミッドセンチュリー期の作品ならではの風合いを醸成します。角部の面取りやほぞ組など、目立たない箇所にまで配された木工技術は、静かな外観の内側に確かな職能を宿します。
製造史の観点では、本作は1957年にP. Lauritsen & Sønのためにデザイン・製造が始まった系譜に属します。モーエンセンはFredericia Stolefabrikとも長く深い協働関係を築きましたが、BM 57については当初P. Lauritsen & Sønの生産が核であり、その後年に一部の権利や製造が移管・統合される流れが生まれました。ゆえに、後年の再整理やラベリングの過程で帰属が混同される事例が見られる点は、来歴検証上の重要な論点です。
デザイン言語の背景には、シェーカー家具の簡素さと機能性、そしてコーア・クリントの体系的なプロポーション理論があります。BM 57はそれらを生活者の目線に引き寄せ、豪奢さではなく誠実な使い心地を軸に据えた「建築的な収納家具」として、今日まで揺るぎない評価を得ています。