About
Designer: Børge Mogensen(ボーエ・モーエンセン)
Manufacturer: Søborg Møbler(ソボーグ・モブラー)
Year: 1960
Material: Teak (plinth: Oak)
Size: W 100 × D 46 × H 124 cm
Story
本作は、モーエンセンが一貫して掲げた「日常のための道具」という思想を体現した収納家具です。視覚的な静けさと秩序を最優先し、前面はフラットな面構成と一体型のハンドルによってまとめられています。人の生活動線に無理を強いない直線基調のプロポーションは、限られた居住空間にも素直に収まり、必要十分な容量を確保するという明確な目的に奉仕します。
設計の意図は、用途の明確化と操作性の単純化にあります。引き出しは高さを段階的に配分し、衣類やリネン、文具類など用途に応じた仕分けを想定しています。台輪脚(プランス)は重心を低く保ち、家具全体を建築的な“ヴォリューム”として扱うための基台として機能します。脚物にありがちな視覚的なノイズを避けることで、壁面収納としての落ち着きと一体感が得られます。
構造の特徴として、箱体は堅牢な枠組と確実な引き出し走行を前提に設計されています。前板に面一で組み込まれた彫り込みハンドルは、突起物を排しながらも指が自然に掛かる角度と深さが与えられており、触れて操作する行為そのものが負担にならないよう配慮されています。箱組や抽斗の接合は、強度と寸法安定性を重視した伝統的工法を前提に、量産工程でも品質を維持できる合理的な断面でまとめられています。
素材は主材にチーク、ベースにオークという選択が典型的です。チークは寸法安定性と耐久性に優れ、柾目使いの面材は直線的な設計意図と調和します。端部の面取りは最小限に抑えられ、角の表情を曖昧にしないことで全体の幾何学性を際立たせます。仕上げは木質の手触りを保つことを重視し、日常的な清掃やメンテナンスが容易であることが前提になっています。
モーエンセンとスボーグ・モブラーの関係は、設計思想と製造品質の整合を軸に築かれました。設計側は明確な寸法体系と部材仕様を提示し、工房側は安定した木取りと精確な加工で応えます。とくに抽斗の直進性や面材の選別といった、使用時に差が出やすい工程において、スボーグの製造体制は高い再現性を確保していました。
工房の特徴として、スボーグ・モブラーは箱物家具に強みを持ち、面精度とエッジの処理、前板の木目通しなど、外観品質を左右する要所に手間を惜しみません。製造の移り変わりにおいても、量産化に対応しつつも、主要寸法と接合ポリシーを守ることでシリーズ内の意匠連続性を保っています。これにより、同時期の椅子やテーブルと組み合わせても統一感のあるインテリアを構成しやすい点が確保されています。
歴史的背景としては、住宅の機能分化が進むなかで、寝室・玄関・廊下など縦方向の収納が必要とされました。本作はその需要に応えるべく、占有面積を抑えつつ実用容量を最大化する“背の高い箱物”として設計されています。扉ではなく引き出しを用いる判断は、開閉時の奥行き要求を低減し、通路や壁際での取り回しを良好にするという合理的な選択です。
総じて、本作は視覚的な静穏さと操作の確実さ、そして長期使用に耐える構造の三点をバランスさせた作品です。引き出しの開閉は軽快で、収納の見通しも良好です。直線的で控えめな表情は他の家具と競合せず、寝室からリビングまで多様な空間での活用が期待されます。設計上の配慮は日常の所作に自然に寄り添い、使い手が主役であるというモーエンセンの原則を静かに支えています。