About
Designer: Finn Juhl(フィン・ユール)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォッダー) / House of Finn Juhl(ハウス・オブ・フィンユール)
Year: 1945
Material: Walnut, Oak, Fabric
Size: W136 × D86 × H78 cm / W216 × D86 × H78 cm(SH41 cm)
Story
リトル・マザー・ソファは、フィン・ユールが建築家としての独自の視点を活かし、家具を彫刻的な「小さな建築物」として捉えた哲学を体現した作品です。彼は木工の伝統的な技術体系から距離を置き、彫刻家ジャン・アルプやヘンリー・ムーアからの影響を受け、有機的なフォルムを追求しました。その結果、このソファは機能的でありながら芸術作品のような存在感を持つ名作として誕生しました。
このソファには、他の家具には見られないユニークな物語があります。1945年に製作された最初のプロトタイプは、ユールの長年の協働者であったマスターキャビネットメーカー、ニールス・ヴォッダーが自らの娘キルステンに贈ったものでした。キルステンの夫である詩人フランク・イェーガーがこのソファを愛用したことをきっかけに、家族の友人であるイラストレーター、ヨルゲン・モーゲンセンが新聞『ポリティケン』で連載した漫画「詩人とリトル・マザー」に着想を得たとされています。こうして「リトル・マザー・ソファ」という名前が生まれ、家具を超えた文化的象徴となりました。
ユールの抽象的なビジョンを形にしたのは、ヴォッダーの高い技術力でした。ユールは意図的に内部構造に無頓着であったため、ヴォッダーがその不完全なスケッチを実現可能な図面へと落とし込みました。リトル・マザー・ソファは、二人の緊密な協働関係が結実した象徴的な作品のひとつであり、彼らの信頼関係と職人技の結晶といえます。
デザインの特徴は、中央に向かって柔らかく湾曲するフォルムとシームレスな張り地にあります。手縫いによる張りぐるみ構造は、身体を優しく包み込む快適さをもたらし、まるで彫刻作品に座るかのような感覚を与えます。現代に復刻されたモデルも、当時と同じ無垢材フレームと手仕事による仕立てを守り続けています。
現在、このソファは2人掛けと3人掛けのモデルで展開され、ウォールナットやオークのフレーム、豊富なファブリックオプションによって、現代の住宅やホテル空間にも調和します。単なる歴史的再現ではなく、現代に息づく「生きた遺産」として位置づけられているのです。