Story
デンマークのモダンデザイン史において、グレーテ・ヤルク（Grete Jalk, 1920–2006）は、多才かつ革新的な存在として特別な位置を占めています。彼女は単なる家具デザイナーではなく、教育者、編集者、歴史の記録者としても大きな役割を果たしました。男性中心のデザイン界で女性として頭角を現し、後進の女性デザイナーに道を切り開いた点においても重要な先駆者です。
彼女のキャリアは法学と哲学の学びから始まりましたが、途中で進路を転じ、デザインの道へと進みました。家具職人としての訓練を経て、王立芸術アカデミーでコーア・クリントに師事し、伝統的クラフツマンシップと機能主義的な設計思想を学びました。その一方で、成形合板という新素材に魅了され、1950年代以降はプライウッドの可能性を追求し続けました。
代表作「GJチェア（Bow Chair）」は、成形合板を2つのパーツで構成し、有機的で彫刻的なフォルムを実現した傑作です。製造の難しさから当初は少数しか生産されませんでしたが、現在はデンマークのLange Production社によって復刻され、国際的評価を得ています。
また、雑誌『Mobilia』の編集や、デンマーク家具史を体系化した著作『Forty Years of Danish Furniture Design』を通じ、デザイン思想を理論的に整理し発信した点も特筆されます。さらに、デンマーク外務省の依頼で世界巡回展を企画するなど、国際的な文化大使としても活躍しました。
グレーテ・ヤルクの功績は、革新的な家具作品にとどまらず、社会の変化を読み解き、それに応えるデザインを提示した点、そしてデンマークデザインを世界に広めた思想家・教育者としての側面においても、非常に大きな意味を持っています。
About
Year: 1920–2006
Place: Copenhagen（コペンハーゲン）
Manufacturer: France & Søn（フランス＆サン）、Glostrup Møbelfabrik（グロストラップ・モブelfabrik）、Poul Jeppesen（ポール・イェッペセン）、Georg Jensen（ジョージ・ジェンセン）、Unika Væv（ユニカ・ヴェーヴ）
History
1920: コペンハーゲンに生まれる
1940: 女性のためのドローイング・応用美術学校に入学
1946: 家具職人としての課程を修了
1940年代後半: 王立芸術アカデミーでコーア・クリントに師事
1947: 「自立した女性の書斎」を発表
1953: 自身のデザインスタジオを設立
1950年代: France & Daverkosen（後のFrance & Søn）のためにソファやイージーチェアを多数デザイン
1956–1962: 『Mobilia』誌の編集に携わる
1962: ネスティングテーブルを発表（Poul Jeppesen製）
1963: GJチェア（Bow Chair）を発表、デイリー・メールのコンペで最優秀賞受賞
1963: 「ウォッチ＆リッスン」ユニットを発表
1963: ニューヨークMoMAにGJチェアが収蔵される
1968–1974: 再び『Mobilia』誌の編集に従事
1974: デンマーク外務省の依頼で世界25都市を巡回するデンマークデザイン展を企画
1987: 『Forty Years of Danish Furniture Design』を編纂・出版
1990年代: Lange Production社による復刻活動が始まる
2006: コペンハーゲンにて死去
Furniture
・Self-supporting Woman’s Den 1947 | 自立した女性の書斎
・Easy Chair Model 118 | イージーチェア
・Sofa Model 118-2 / 118-3 | ソファ
・Coffee Table | コーヒーテーブル
・Wall-mounted Storage System | 壁掛け式収納システム
・Nesting Tables 1962 | ネスティングテーブル
・GJ Chair 1963 | GJチェア（Bow Chair）
・Watch and Listen Unit 1963 | ウォッチ＆リッスン ユニット
・Easy Chair Model 168 | イージーチェア（Great Dane）
・Library Desk | ライブラリーデスク
・Stool | スツール
・Side Table with Drawers | 引き出し付きサイドテーブル
・Silverware Designs for Georg Jensen | ジョージ・ジェンセンの銀製品デザイン
・Textile and Wallpaper Designs for Unika Væv | ユニカ・ヴェーヴのテキスタイルと壁紙デザイン