Story
ヨハネス・ソースは、デンマーク・モダンの黄金期において、職人と経営者を兼ね備えた稀有な存在でした。彼の歩みは、ハンス・J・ウェグナーやアルネ・ヤコブセンといった巨匠たちとは異なり、自らの工房とともにデザインを実現するという、垂直統合型のキャリアによって特徴づけられます。そのため彼の名は国際的に広く知られることは少ないものの、ボーンホルム島に根差した家具づくりは、デンマークデザイン史の重要な一章を形づくりました。
彼が目指したのは、戦後の都市化が進む社会に対応した、省スペースかつ多機能な家具の開発でした。特に「コンビネーション・ファニチャー」と呼ばれる収納とデスク機能を兼ね備えた家具群は、実用性と美学を同時に追求した成果であり、現代の生活空間にも通用する先進的なものでした。その機能性は単なる便利さに留まらず、時代の要請に応じた知的な解答といえます。
ソースの作品には、チークやローズウッドといった高品質な木材が用いられました。突板と無垢材を組み合わせ、強度と美観を両立させるデンマーク家具の典型的な製法を駆使しつつ、彫刻的なディテールを細部に盛り込みました。特に、軽やかさを演出するテーパー状のフォルムや、美しく削り出された取っ手などは、彼の職人的感性の表れです。
彼の代表作であるセクレタリー・ブックケースは、収納とワークステーションを融合させた革新的な作品でした。タンブール扉や引き出し式のライティングデスクを備えたこの家具は、家庭における生活空間と仕事空間の融合を予見しており、今日の在宅ワーク文化をも先取りした存在といえるでしょう。さらに、オーバル・ペデスタル・キャビネットなどの造形的な作品は、実用性を超えて芸術的価値を帯びています。
ソースの遺産は、華やかな国際的評価ではなく、自らが築いた工房とその製品群に凝縮されています。彼の家具は現在も世界中のコレクターに求められ、実用的でありながら優美な佇まいを持つ作品として評価されています。彼の人生は、家具そのものを通じて語られるべきものであり、「プラグマティックなエレガンス」の体現者として、デンマーク・モダンの歴史に欠かせない存在なのです。
About
Year: 1942–1988
Place: Nexø(ネクソ)
Manufacturer: PP Møbler(PPモブラー)、Fredericia(フレデリシア)、Bornholms Møbelfabrik(ボーンホルムス・モーベルファブリック)
History
1942: ヨハネス・ソスがボーンホルム島ネクソにBornholms Møbelfabrikを設立
1950年代: セクレタリー・ブックケースを発表し、デザインの方向性を確立
1960年代: コンビネーション・ファニチャーが人気を博し、都市生活に対応した家具として評価される
1960年代後半: オーバル・ペデスタル・キャビネットなど彫刻的な作品を制作
1970年代: 国際的に顧客を持つ工房へと発展
1980年代: デンマーク・モダンの衰退とともに事業が縮小
1988: Bornholms Møbelfabrikが閉鎖
閉鎖後: 工房建物は地域の起業家支援施設「Møbelfabrikken」として再利用される
Furniture
・Secretary Bookcase | セクレタリー・ブックケース
・Oval Pedestal Cabinet | オーバル・ペデスタル・キャビネット
・Chest of Drawers | チェストオブドロワーズ
・Sideboard | サイドボード
・Writing Desk | ライティングデスク
・Nightstand | ナイトスタンド