Asger Jorn | アスガー・ヨルン


Story

アスガー・ヨルン(1914-1973)は、デンマークを代表する20世紀の前衛芸術家であり、画家、彫刻家、陶芸家、理論家として幅広い活動を展開しました。彼の芸術は、抽象表現主義やシュルレアリスムの影響を受けながらも、それらを超えて独自の混沌とした表現を築き上げました。ヨルンは生涯にわたり、芸術を社会変革の手段と考え、単なる個人的な表現を超えて、共同体や公共性に根ざした創造を目指しました。

彼は戦時下のデンマークで、地下芸術グループ「ヘルヘステン」を共同創設し、ナチス占領への抵抗として芸術を位置づけました。戦後には国際的な前衛芸術運動「コブラ」を結成し、芸術の自発性と自由を追求しました。さらに1957年には「シチュアシオニスト・インターナショナル」の創設に参加し、芸術と政治を横断する活動を展開しました。

ヨルンは「修正絵画(Modifications)」と呼ばれる独創的なシリーズで、既存のキッチュ的な絵画に自身の奔放な筆致を加えることで、新たな意味を創出しました。これは彼の思想である「転用(détournement)」の実践であり、既成の価値観を覆す批評的な芸術行為でした。

また、彼は「三元論(Triolectics)」という独自の社会理論を提示し、二項対立を超える新しい関係性のモデルを探求しました。この思想は彼の芸術実践に深く根ざし、作品に見られる混沌と相互作用の美学を支える理論的基盤となりました。

晩年、彼は膨大なコレクションをシルケボーに寄贈し、後にヨルン美術館(Museum Jorn)として開館しました。そこには彼の生涯の作品群が収蔵され、今日に至るまで彼の挑戦的な思想と実践を後世に伝えています。ヨルンは芸術の境界を絶えず越え、社会と文化に新しい視点を与え続けた不屈の芸術家でした。


About

Year:1914-1973
Place:Vejrum(ヴェイルム)- Aarhus(オーフス)
Museum:Museum Jorn(デンマーク・シルケボー)、Guggenheim Museum(アメリカ・ニューヨーク)、Louisiana Museum of Modern Art(デンマーク・フムレベック)


History

1914:デンマークのヴェイルム村に生まれる。本名はアスガー・オルフ・ヨーゲンセン。
1926:12歳の時に父を事故で亡くす。
1929:結核を患い、療養中に絵画を始める。
1933:デンマーク共産党に入党し、初の風刺版画を制作。
1936:パリに渡り、フェルナン・レジェに師事。
1937:ル・コルビュジエと共にパリ万国博覧会の展示に参加。
1941:地下芸術グループ「ヘルヘステン」を共同創設。
1948:オランダとベルギーの芸術家と共に前衛芸術運動「コブラ」を結成。
1951:結核が悪化し、シルケボーに戻る。
1954:イタリア・アルバソラに滞在し、陶芸制作を本格化。
1957:「シチュアシオニスト・インターナショナル」を創設。ギー・ドゥボールらと活動。
1958:大型タペストリー《長い旅》を共同制作。
1959:「修正絵画」シリーズを開始。《不安なアヒル》などを制作。
1961:シチュアシオニストを脱退。スカンジナビア比較ヴァンダリズム研究所を設立。
1962:《甘い生活Ⅱ》を制作。
1965:三元論の理論を提唱。三ゴール制サッカーを考案。
1970:陶芸やタペストリーなど多様なメディアで制作を続ける。
1973:デンマークのオーフスで死去。
2010:シルケボー美術館がヨルン美術館(Museum Jorn)に改名。


Works

・Stalingrad | スターリングラード
・The Disquieting Duckling | 不安なアヒル
・The Sweet Life II | 甘い生活Ⅱ
・Le Hollandais Volant | 空飛ぶオランダ人
・Green Valley | グリーン・バレー
・The Long Journey | 長い旅
・Letter to my Son | 息子への手紙
・Out of the Chaos | 混沌から
・Phoenix Flight | フェニックスの飛翔
・Man and Mask | 人と仮面
・The Timid Cat | 臆病な猫
・Without Title (Cobra Period) | 無題(コブラ期)
・The Poet’s Garden | 詩人の庭
・Living Creatures | 生きるものたち
・A Winter Scene | 冬の情景
・The Smiling Beast | 笑う獣
・Abstract Composition | 抽象構成
・Carnival Figures | カーニバルの人物たち
・Encounter in the Woods | 森の出会い
・Self-Portrait | 自画像

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