Story
モーエンス・ヴォルテレン(Mogens Voltelen, 1908–1995)は、デンマーク・モダニズムの黄金期に活動した建築家兼デザイナーであり、家具・建築・照明理論・教育と幅広い分野にわたり影響を残しました。彼はハンス・J・ウェグナーやフィン・ユールといった同時代の巨匠と比べると国際的知名度は低いものの、デンマーク・デザイン史の中で独自かつ重要な役割を果たしています。
1925年に王立デンマーク美術アカデミー建築学部に入学し、わずか2年で卒業した後、ポール・ヘニングセン(PH)やヴィルヘルム・ラウリッツェンの事務所で研鑽を積みました。特にPHとの関わりは決定的であり、PHランプのスケッチを清書する作業を通じて照明理論への関心を深めました。また、雑誌『Kritisk Revy』『Kulturkampen』の編集に携わり、社会的・文化的議論にも積極的に関与しました。
彼の家具デザインで最も象徴的なのは「コペンハーゲンチェア」です。1936年に発表された初期モデルは、優雅な曲線と真鍮鋲で留められた革の座面を持ち、スペインの民族椅子の影響を受けながら北欧モダンへと昇華しました。1960年に発表された「コペンハーゲンII(MV60)」では、幾何学的で建築的なシルエットへと進化し、デザイン運動の成熟を示しました。
この家具が高く評価された背景には、名工ニールス・ヴォダーとの協働があります。ヴォルテレンの建築的発想とヴォダーの精緻な木工技術が融合することで、極めて少量ながら質の高い作品が生まれました。また、彼はフィン・ユールとヴォダーを引き合わせる役割も果たし、デンマーク・モダニズムを象徴する協働関係の橋渡しをした点でも重要です。
さらに、ヴォルテレンは1940年から1978年まで王立デンマーク美術アカデミーで照明理論を教え、ルイジアナ近代美術館やグルントヴィーク教会などの照明設計にも関わりました。家具を超えて、理論・教育・建築・照明といった多方面における功績は、デンマーク・デザインの知的基盤を支える存在であったことを物語っています。
About
Year: 1908–1995
Place: Copenhagen(コペンハーゲン)
Manufacturer: Niels Vodder(ニールス・ヴォダー)
History
1908: デンマーク南ローラン島セーロプに生まれる
1925: 王立デンマーク美術アカデミー建築学部に入学
1927: 卒業後、ポール・ヘニングセン、ヴィルヘルム・ラウリッツェンの事務所に勤務
1927–1929: 『Kritisk Revy』編集補佐を務める
1931: イージーチェアやロープ張りのサイドチェアを発表
1936: コペンハーゲン職人ギルド展示会にて「コペンハーゲンチェア」発表、ニールス・ヴォダーが製作
1936–1939: 雑誌『Kulturkampen』共同編集者を務める
1940: 王立美術アカデミーにて照明理論の講師に就任(1978年まで継続)
1943: 照明標準化委員会のメンバーに加わる
1947–1951: デンマーク建築研究所の研究責任者を務める
1951–1958: ルイジアナ近代美術館、オスロ大学、グルントヴィーク教会などで照明設計を担当
1958: ルイジアナ近代美術館完成に照明コンサルタントとして関与
1960: 「コペンハーゲンII(MV60)」を発表、幾何学的なデザイン言語を展開
1960年代: ルイ・ポールセンやFog & Mørupのために照明器具をデザイン(Blindernペンダント、Minor & Majorなど)
1963: 著書『Belysningslære』を刊行、照明理論を体系化
1970年代: 教育者・理論家として多くのデンマーク建築家を指導
1978: 王立美術アカデミーを退任
1995: 死去、デンマーク・デザイン史の重要人物として再評価される
Furniture
・Easy Chair(1931)
・Side Chair with rope seat(1931)
・Copenhagen Chair(1936)
・Copenhagen II MV60(1960)
・Blindern Pendant(1960s)
・Minor Pendant(1960s)
・Major Pendant(1960s)
・Centura Ceiling Lamp(1960s)