About
Designer: Ole Wanscher(オーレ・ヴァンシャー)
Manufacturer: PJ Furniture(PJファニチャー) / Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1949
Material: Oak, Walnut, Mahogany, Cane, Leather
Size: W 65 cm × D 68 cm × H 85 cm
Story
コロニアルチェアは、オーレ・ヴァンシャーが1949年にデザインした代表作であり、デンマークモダンの美学を象徴する椅子です。ヴァンシャーは師であるコーア・クリントから「家具を建築として捉える」という思想を継承し、単なる道具ではなく空間全体と調和する存在として家具を設計しました。その成果が、この繊細かつ均整の取れたフォルムに集約されています。
デザインの源泉には、18世紀の英国家具や植民地時代のクラシカルな様式がありました。しかしヴァンシャーは歴史的意匠をそのまま模倣するのではなく、細く優美なラインと完璧なプロポーションをもって現代的に再構築しました。特にアーム先端が下方に向かってカーブする意匠や、外側に開いた後脚のシルエットは、軽やかさと安定性を両立させると同時に、建築的な構造美を宿しています。
この椅子の最大の特徴は「華奢な外観と高い強度の共存」です。精密に計算された接合部やカーブは、見た目の軽やかさに反して驚くほどの耐久性を実現しています。建物の骨格を設計する建築家のように、ヴァンシャーは椅子の内部構造を緻密に設計し、職人の技術と融合させました。
座面は籐張りの上にクッションを載せる二重構造となっており、視覚的な軽快さと快適な座り心地を兼ね備えています。クッションはウレタンチップとフェザーを組み合わせ、沈み込みすぎない絶妙な硬さを実現しています。取り外し可能な構造により、清掃や交換も容易であり、長く使い続けることができます。
素材は時代によって変遷しています。初期のヴィンテージモデルにはマホガニーやアッシュといった希少材が用いられ、現行モデルではオークやウォルナットが主流です。張り地には高品質のセミアニリンレザー「Thor」がよく用いられ、しっとりとした肌触りと耐久性を両立しています。こうした選択肢の幅広さは、使い手のライフスタイルに寄り添うというヴァンシャーの哲学を反映しています。
製造は当初P. イエッペセン社が担い、その後カール・ハンセン&サンが引き継いで現在も生産が続けられています。ヴィンテージモデルには「Danish Quality Control」のシールが貼られており、当時の品質保証と時代背景を伝える証ともなっています。
コロニアルチェアは軽量で移動しやすく、リビングから書斎、応接室まで幅広い空間に調和します。その普遍的な魅力は、クラシックな様式美とモダンな機能性を融合させた稀有な存在であり、まさに世代を超えて受け継がれる文化的財産といえるでしょう。