About
Designer: Kaare Klint(ア・クリント)
Manufacturer: Rud. Rasmussen(ルド・ラスムッセン) / Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1930
Material: Ash, Oak, Leather, Canvas
Size: W68.5 × D50 × H44 cm(ヴィンテージ個体) / W54 × D49 × H45 cm(現行品)
Story
カア・クリントが1930年に構想した「プロペラ スツール」は、デンマーク家具史における機能主義の象徴的な作品です。脚部が折りたたまれると一本の円柱となる革新的な機構は、当時の技術では量産が困難であり、製造開始まで30年以上の歳月を要しました。
本作は1962年にルド・ラスムッセン工房で初めて製造され、同年のコペンハーゲン家具職人組合展で発表されました。1964年にはナウル・クリントにより再び展示され、父の遺産を継承する重要な作品として評価を確立しました。
素材には灰木やオークが用いられ、座面には革または帆布が選ばれました。さらに「KK87831 プロペラ・トレイ」を組み合わせることで、スツールからローテーブルへと変化する多機能性が備わっています。この実用性と構造美の両立は、クリントの合理主義的デザイン哲学を端的に表しています。
ユーザーの所有する1970年代製の個体は、灰木フレームに赤革の座面と専用トレイを備えた希少なセットであり、当時の職人技の結晶を示すものです。独特の経年変化が刻まれ、工業製品にはない手仕事の証としてその真正性を裏付けています。
ルド・ラスムッセンは2011年にカール・ハンセン&サンに買収され、2016年にブランド名は廃止されました。そのため、このスツールは消滅した工房の歴史を体現する工芸的遺産であり、今日では文化的・芸術的価値を伴う存在として高く評価されています。