About
Designer: Kaare Klint(コーア・クリント)
Manufacturer: Rud. Rasmussen(ルド・ラスムッセン) / Carl Hansen & Søn(カール・ハンセン&サン)
Year: 1929
Material: Mahogany
Size: W 80 × D 80 × H 52 cm
Story
本作は、構造に根ざした明快な造形と、居室での自然な所作に寄り添う寸法計画を兼ね備えたコーア・クリントの端正な実例です。余分な装飾を排し、必要な機能を静かに整える姿勢は、デンマーク・モダンの方法論を的確に伝えます。天板の控えめな立ち上がりは視覚的な抑揚を与えつつ、日常の使用で物が滑り落ちにくい安心感をもたらします。高さはラウンジシーティングに適合し、手を伸ばした位置で無理のない扱いやすさを確保します。
脚部と棚板の取り合いは見どころです。棚板の角を落とし、脚の平面に面で受ける接合とすることで、見た目の整合と剛性の両立を図っています。縁や角の丁寧な面取り、脚に入る細い溝は、触れたときの滑らかさと耐久性に寄与し、意匠と機能が自然に結び合う設計姿勢を端的に示します。
素材は均質で安定したマホガニーを採用しています。緻密な木理は薄い見付けでも剛性を保ち、軽やかな表情と確かな据わりを同時に実現します。部材厚の節度ある配分と接合面の工夫により、視覚的な軽快さと構造的な安定感を過不足なく両立させています。
製作は精密な木取りと仕上げで知られるルド・ラスムッセンが担いました。寸法精度に裏打ちされた組み手、磨き上げられた接合部、均質なエッジの処理など、静かなデザインを支える基礎技術が隅々に息づきます。後年には生産体制が移行しつつも、設計意図は一貫して継承され、作品の品位は保たれてきました。
天板の縁と下段の棚板は、置く・取る・片づけるといった日常動作を穏やかに導きます。面が常に整い、使い手は動作の途中で迷いません。体になじみ、空間に静かな秩序を与える佇まいは、クリントの設計思想の確かさを示し、今日の住環境でも自然に機能します。