About
Designer: Arne Jacobsen(アルネ・ヤコブセン)
Manufacturer: Rud. Rasmussen(ルド・ラスムッセン)
Year: 1952
Material: Steel, Oak, Walnut, Leather
Size: W160 × D70 × H72 cm
Story
AJ52ソサエティ・デスクは、1952年にアルネ・ヤコブセンがアメリカ・スカンジナビア財団(ASF)のために設計した特注デスクです。製作を担当したのは、コペンハーゲンの伝統工房ルド・ラスムッセンであり、デンマーク家具史において建築的構造美と職人技の融合を象徴する作品として知られています。
ヤコブセンは、王立芸術アカデミーでコーア・クリントの教育を受け、機能主義と構造の明快さを重視する理念を受け継ぎました。本作はその理念を継承しつつ、彼自身の感性で「建築としての家具」を表現しています。スチールチューブのフレームに木製の引き出しユニットを吊り下げる構造は、視覚的な軽快さと合理的な強度を兼ね備えたもので、モダニズム特有の透明感を空間にもたらします。
天板には滑らかなレザーが張られ、書き心地と手触りの良さを両立しています。引き出し部分にはオークやウォルナットなどの無垢材が使われ、細部の仕上げまで精緻に設計されています。初期モデルでは青色ラッカーを施した例もあり、ヤコブセン特有の色彩感覚が見られます。工業的な素材であるスチールと、温かみのある木材・レザーを調和させる設計は、後年のSASロイヤルホテルのデザインにも通じる要素です。
ルド・ラスムッセン工房は、このような複雑な異素材の構成を高い精度で実現しました。木工職人による手作業での引き出し製作、レザーの張り込み、そしてスチールフレームとの組み付けは、機械生産では到達しえない緻密な工芸技術の結晶です。ヤコブセンが新しい時代のデザインへと進む直前に、最も信頼を寄せた工房としての存在感がここに表れています。
このデスクは当初、限定的に製作された特注品でしたが、2017年にカール・ハンセン&サンによって復刻されました。復刻版もルド・ラスムッセンのアーカイブをもとに忠実に再現され、当時の構造と素材の美学を現代に伝えています。AJ52は、デンマーク家具の伝統的な木工とインダストリアルデザインを架橋する存在として、今日でも建築家やデザイン研究者から高い評価を受けています。