Academy Cabinet | アカデミー・キャビネット


About

Designer: Poul Kjærholm(ポール・ケアホルム)
Manufacturer: Rud. Rasmussen(ルド・ラスムッセン)
Year: 1955
Material: Oregon Pine, Birch, Lacquered Steel
Size: W106 × D78 × H95 cm


Story

1955年にポール・ケアホルムによってデザインされた「アカデミー・キャビネット」は、彼のキャリア初期を象徴する重要な作品であり、デンマーク・モダンデザインにおける伝統と革新の結節点として位置づけられます。製造を担当したのは、コペンハーゲンの老舗工房ルド・ラスムッセンであり、同作は王立芸術アカデミー建築学校のために特別に制作されました。

当時、ケアホルムは工業素材の美学を追求し始めており、木材とスチールという対照的な素材を融合させることで、構造そのものの美を際立たせています。本体にはソリッド・オレゴンパイン、内部にはバーチ材、そして脚部にはラッカー仕上げのスチールが用いられ、伝統的な温もりと現代的な冷静さが見事に調和しています。

キャビネットはフラットファイル形式で設計され、引き出しの底部をわずかに前面に出すことで取っ手を兼ねるなど、機能と構造を一体化した設計思想が徹底されています。特筆すべきは、手作業による蟻継ぎで組まれた堅牢な構造であり、ルド・ラスムッセン工房の職人技の粋が込められています。

この作品の製造台数はわずか31台にとどまり、極めて限定的な特注家具でした。王立アカデミーの公的な依頼に応じて制作されたことからも、ケアホルムがいかに高い信頼を得ていたかがうかがえます。彼はこの経験を通じて、職人技の伝統に根ざしつつ、工業的モダニズムへと移行する足掛かりを築きました。

その後、ケアホルムはE. コールド・クリステンセンとの協働を経て、PKシリーズなどの代表作を生み出していきます。アカデミー・キャビネットは、その萌芽を示す最初の作品として位置づけられ、後のミニマリズム的なデザイン展開の礎を築いた存在といえます。

 

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