About
Designer: Arne Vodder(アルネ・ヴォッダー)
Manufacturer: Sibast Furniture(シバスト・ファニチャー)
Year: 1960
Material: Rosewood, Teak
Size: W200 × D50 × H85.5 cm
Story
Model 75 Sideboardは、アルネ・ヴォッダーが1960年にデザインし、シバスト・ファニチャーによって製造されたサイドボードです。チークやローズウッドといった高級材を贅沢に使用しながらも、抑制の効いたフォルムと均整のとれたプロポーションが際立つ作品です。デンマーク家具産業が国際的に最盛期を迎えた1960年代初頭を象徴する代表作の一つです。
この作品の最大の特徴は、正面に備えられた蛇腹式ロールフロント扉です。扉は細いスリット状の無垢材を連続して構成し、内部レールに沿って滑らかに収納される構造を採用しています。扉を開けても前方に空間を取らず、省スペースでありながら高い意匠性を保っています。この精密な仕組みは、シバストの卓越した木工技術によって実現されたものです。
内部構造は4つの区画で構成され、棚板と引き出しが可動式として設計されています。特に右端にはハンギングフォルダー用のレールが組み込まれており、家庭用の収納家具でありながらオフィスユースにも対応できる先進的な設計思想が読み取れます。この柔軟な収納構造は、モダン家具における「機能のモジュール化」の先駆的な例として位置づけられます。
素材には、ブラジリアン・ローズウッド(Dalbergia nigra)と考えられる高密度の無垢材が使用されています。重厚で深みのある木目は、視覚的な存在感とともに高い耐久性を備えており、構造材にはチークを併用することで全体の剛性と安定性を確保しています。ローズウッドの縁取りや脚部の仕上げには、シバスト職人の繊細な手仕事が活かされ、ミニマルでありながら豊かな質感を感じさせます。
Model 75は、ヴォッダーのデザイン哲学を象徴する作品として位置づけられます。彼が師であるフィン・ユールから継承した有機的造形の理念に、合理的な構造と実用性を融合させたデザインアプローチが見事に結実しています。現在でもその静謐な造形は、北欧デザインの原点を象徴する存在として高く評価されており、空間に穏やかな緊張感をもたらす一点です。