チャイニーズチェアが示すウェグナーの原点── フリッツ・ハンセンと東洋的造形の融合


チャイニーズチェアという起点

ハンス・J・ウェグナーが1944年に発表したチャイニーズチェアは、彼の椅子の仕事のなかでも特に重要な位置を占める作品です。この椅子には、のちの「ザ・チェア」や「ウィッシュボーンチェア」へとつながる考え方が、すでに明確な形で表れています。単なる初期作というより、ウェグナーが椅子に何を求めていたのかが、最初にはっきり示された一脚と言えます。

同時に、チャイニーズチェアはフリッツ・ハンセンの製造史においても珍しい存在でした。工業的な量産技術を軸に発展してきた同社の製品群のなかで、この椅子は無垢材を主構造としています。メーカーの得意分野に合わせて形を整えた椅子ではなく、ウェグナー自身の考え方が優先された結果として成立した椅子です。この点だけを見ても、本作が特別な意味を持つことが分かります。


東洋の椅子を手がかりにした造形

チャイニーズチェアの着想源は、中国・明代の「圏椅(クワンイ)」と呼ばれる円背の椅子です。背から肘へと連続する大きなカーブを持ち、座る人を包み込むような形が特徴です。ウェグナーはこの椅子に強い関心を示し、実物を通して形のつながり方や、座ったときの印象を確かめています。

ただし、彼はこの形をそのまま再現することはしませんでした。背と肘の連続したラインという要点だけを残し、構造は北欧の木工に合うように整理されています。余分な装飾は削ぎ落とされ、全体は簡潔で落ち着いた印象にまとめられました。見た目には東洋の椅子を思わせながらも、作り方や構造は完全にデンマークの椅子として成立しています。


無垢材がもたらした構造の緊張感

チャイニーズチェアの大きな特徴のひとつが、無垢材を用いた構造です。積層合板や成形技術を得意としていたフリッツ・ハンセンにとって、この選択は例外的でした。それでも無垢材が採用された背景には、指物師として出発したウェグナーの素材に対する考え方があります。

削り出しによる立体的な笠木、滑らかにつながる肘のライン、脚部との緊密な接合は、素材の性質を理解していなければ成立しません。無垢材は見た目のために選ばれたのではなく、構造そのものを成立させるために必要な素材でした。その結果、椅子全体には独特の張り詰めた印象が生まれています。


二つの方向性が示す設計の幅

チャイニーズチェアには、表現性の高い初期の造形と、後年に見られる整理された構造という、二つの方向性が読み取れます。初期のモデルは、彫刻的で軽やかな印象を持ち、造形としての完成度が強く意識されています。

一方で、後に展開される系譜では、構造がより単純化され、実用性が前面に出てきます。同じ原型を持ちながら、印象が異なるのは、ウェグナーが一つの答えに留まらず、常に形を見直し続けていたからです。この椅子には、彼の設計が固定されたものではなかったことがはっきりと表れています。


全方向から成立する椅子

ウェグナーは、椅子はどの方向から見ても成立していなければならないと考えていました。チャイニーズチェアも、壁際に置かれることを前提とせず、空間の中で独立して存在する構成を持っています。背面や斜め後方から見ても、線の流れや構造に破綻はありません。

この全方向性は、椅子を単なる道具ではなく、空間の中に置かれる存在として捉えていたことを示しています。装飾に頼らず、形そのもので成立させる姿勢は、ウェグナーの仕事全体に共通する特徴です。


原点として残り続ける一脚

チャイニーズチェアは、ウェグナーのキャリアの初期に生まれた椅子でありながら、その後の仕事を理解するための重要な手がかりでもあります。東洋の椅子に着想を得ながら、北欧の木工として再構成された形、無垢材による緊張感のある構造、全方向から成立する造形。これらの要素は、後年の代表作にも確実に受け継がれていきました。

この椅子が今も特別な存在として語られる理由は、完成度の高さだけではありません。ウェグナーが椅子に向き合う姿勢そのものが、最初からはっきりと刻み込まれている点にあります。

圏椅(クワンイ)

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