About
Designer: Hans J. Wegner
Manufacturer: Th. Pedersen & Sons(Aarhus)
Year: 1938–1939
Material: Mahogany, Leather
Size: W 49.5 × D 50.8 × H 83.8 × SH 42 cm
Story
1938〜1939年、ハンス・J・ウェグナーはデンマーク・フュン島の公共施設であるニィボー市立図書館(Nyborg Folkebibliotek)のために、一連の家具を委嘱されました。その中心に位置づけられるのが、後に「ニィボー・チェア(Nyborg Chair)」あるいは「閲覧室の椅子(Reading Room Chair)」と呼ばれるハイバックチェアです。
この椅子は、ウェグナーがまだ20代前半という初期にありながら、後年の代表作へと連なる設計思想をすでに明確に示している点で重要です。家庭用の椅子ではなく、公共図書館という制度的空間のための道具として設計されたことで、造形は抑制され、同時に長時間使用に耐える構造的合理性が強く求められました。
意匠の源流には英国のウィンザーチェアがあります。無垢材の座面に脚や背のスポークを直接差し込む構造を基礎としながら、ウェグナーはそれを近代的に再構成しました。背の笠木からアームへ連続するライン、視覚的な軽やかさ、空間を圧迫しない透過性は、閲覧室という用途に対するきわめて実務的な回答です。
特筆すべきは、当初意図されていた一本曲げの背部材が、当時の製作技術上の制約により断念され、複数材の接合構造へ変更された点です。ウェグナーはこの制約を隠すのではなく、接合部を意図的に見せることで、構造そのものを造形として成立させました。この「隠さない」態度は、のちの The Chair における接合表現や、工房と対話しながら構造を磨き上げていく姿勢へとつながる、初期の決定的な萌芽として読み取れます。
素材はマホガニーとされる例が多く、公共施設に必要な格調と耐久性を担保する選択だったと考えられます。一方で、子供用家具や一部バリエーションではビーチ材の作例が言及されることもあり、空間内で用途や階層に応じた素材計画が存在していた可能性があります。座面はレザー張りとされる資料が多く、戦前期の標準的な仕様として、過度なクッションに頼らず、適度な保持力を確保する設計意図がうかがえます。
ニィボー・チェアは、派手なアイコンではありませんが、構造と用途を一致させることで形が決まっていくという、ウェグナーの骨格そのものが表れた一脚です。図書館の静けさにふさわしい抑制と、接合を語らせる強い意志が同居しており、初期作品でありながら「後のウェグナー」を十分に予告する存在だと言えます。
関連記事
・オーフス市庁舎とニィボー市立図書館の家具 — ウェグナーを取り巻くデンマーク・モダニズム史を俯瞰する一考察