About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: Johannes Hansen
Year: 1950
Material: Oak, Cane, Brass
Size: W710 × D880 × H940 mm
Story
ドルフィンチェア JH510 / JH511は、1950年に発表されたハンス・J・ウェグナーによる最も彫刻的な折りたたみ椅子の一つです。コペンハーゲン家具職人ギルド展においてヨハネス・ハンセンのスタンドで公開され、その大胆なカンチレバー状アームと有機的なシルエットは当時の来場者に強い印象を残しました。
その名の通り、海面を跳ね上がるイルカの躍動を思わせるフォルムは、ウェグナーが追求した生命形態的造形と人間工学の融合を象徴しています。前方に張り出したアームレストは視覚的なインパクトを持ちながらも、後脚へと連続する構造線の中に収められ、力の流れが自然に伝達されるよう設計されています。造形美は装飾ではなく、構造合理性の延長として成立しています。
フレームには堅牢なオーク無垢材が用いられ、接合部には真鍮製フィッティングが組み込まれています。真鍮パーツは折りたたみ機構の可動部として機能すると同時に、視覚的アクセントとして構造を露出させる役割も担っています。ウェグナーは構造を隠すのではなく、デザインの一部として提示することで、クラフトと機械的要素の共存を表現しました。
座面と背もたれには籐(ラタン)のケーン編みが施されています。軽量化と通気性を確保しながら、身体荷重に対して適度にしなる構造は、木部フレームへの負荷を分散させる役割を果たします。見た目の軽やかさと構造的合理性が両立されており、折りたたみ椅子でありながら高い安定性を備えています。
JH510はラウンジチェアとしての均整の取れたモデルであり、JH511は奥行きを大きく拡張したロングタイプです。より強調されたプロポーションは、家具というよりも空間彫刻に近い存在感を放ちます。いずれも量産には至らず、造形探求の成果として位置付けられる作品です。
ドルフィンチェアは、機能主義を基盤としながらも詩的な造形感覚を重ね合わせたウェグナーの設計思想を明確に示しています。折りたたみ機構という合理的課題に対し、流線型の木部と軽快な編み座面で応答するこの椅子は、構造力学と彫刻的表現が高度に統合された20世紀北欧家具デザインの到達点の一つと言えるでしょう。
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