About
Designer: Hans J. Wegner(ハンス・J・ウェグナー)
Manufacturer: GETAMA(ゲタマ)
Year: 1968-1969
Material: Oak, Lacquered Steel, Upholstered
Size: W750–930 × D970 × H830–850 × SH330–380 mm
Story
GE440は、ハンス・J・ウェグナーが1968年から1969年にかけてGETAMAのために構想した、極めて実験性の高いラウンジチェアです。多くのウェグナー作品が量産モデルとして広く普及したのに対し、本作は展示会モデルとしての性格が強く、限られた期間・限られた流通の中で存在した特異なプロダクトとして位置づけられます。
この椅子の最大の特徴は、オーク無垢材とラッカー塗装スチールという異素材の融合にあります。1950年代の有機的な木工芸的アプローチとは異なり、1960年代後半の空気を反映した工業的な要素が明確に取り入れられています。スチールのベースフレームは視覚的な軽さと構造的合理性を担い、その上に彫刻的に削り出されたオークのアームとサイドフレームが重ねられています。冷静な構造体の上に、触覚的な温もりを持つ木部が配置される構成は、ウェグナーが常に追求してきた「合理性と人間性の両立」を体現しています。
プロポーションは低く抑えられ、当時のインフォーマルな生活様式に対応するリラックスした姿勢を前提としています。深い奥行きと低めの座面設定により、身体を包み込むような着座感が生まれます。同時に、フレームの線は明確で、建築的な秩序を失っていません。柔らかさと緊張感が共存するバランスは、ウェグナー後期の思想的深化を示すものです。
クッション内部にはGETAMAが長年培ってきたスプリング構造が採用されています。マットレスメーカーとして出発した同社の技術は、単なる柔軟性ではなく、芯のある反発力を生み出します。これにより、長時間の着座においても安定した支持力が保たれます。張地にはファブリックやレザーが用いられ、縁にはレザーのシームが施されるなど、視覚的な緊張感と耐久性が両立されています。
GE290やGE240といった代表的なGETAMA製モデルが、木材主体の構造美を前面に押し出していたのに対し、GE440は素材言語そのものを拡張する試みといえます。量産モデルとしての普遍性よりも、時代の変化に対する応答としての実験性が強く表れています。そのため流通数は極めて少なく、ウェグナーのアーカイブの中でも特異な位置を占める存在です。
GE440は、完成された定番というよりも、デザインの可能性を探るための挑戦の記録に近い椅子です。伝統的な木工技術に根ざしながらも、新しい素材や構造に対して開かれた姿勢を示しています。その姿は、ウェグナーが生涯にわたり続けた「より良い椅子」を求める探求の一断面として、今日もなお静かな存在感を放っています。